稲盛和夫さんがJAL再生で何よりも重んじたこと 「心」を変え、同じ思いを共有して起きた劇的変化
それでも、その大切さを訴え、週に一度は私自身が講義をするということにして、なんとかリーダー教育をスタートさせることができました。
そこで伝えたかったのは、組織のマネジメントの方法でもテクニックでもない。私がまず行ったのは、これまでの経営者人生の中で大切にしてきた考え方、理念であり行動規範でもある「フィロソフィ」を説くことでした。
それらはたとえば、「一生懸命に仕事に打ち込む」「感謝の気持ちを忘れない」「つねに謙虚で素直な心をもつ」など、子どものころに親からいわれ、また学校で先生から教わったようなプリミティブな教訓や道徳をベースにした考え方です。
会社を破綻に追い込んだ元凶
そんな話を聞かされた幹部社員たちは当初、戸惑いと困惑の表情を隠さず、「なぜこのような子どもじみたことを、いまさら学ばなければならないのか」と反発する者も少なからずいました。そういう人たちに対して、私はよく次のようにいったものです。
「みなさんが幼稚といい、当たり前という、とてもシンプルなこれらの考え方を、みなさんは知識としてもっているかもしれませんが、けっして身についてはいないし、実践できてもいません。それが会社を破綻に追い込んだ元凶なのです」
そんな話をしながら粘り強く伝えていった結果、1人、2人としだいに理解を示してくれる者がふえ、やがてだれもが真摯な態度で私の話を聞いてくれるようになりました。
このようにして始まった「リーダー教育」は、やがて幹部社員のみならず一般の社員へと規模を広げ、すべての社員を対象に開かれる「フィロソフィ勉強会」へと発展しました。そして、やがて社内で独自の「JALフィロソフィ」がつくられるまでになりました。
フィロソフィが従業員の心に浸透するにしたがって、会社の業績も驚異的な伸びを見せるようになり、予想をはるかに上回る成果を上げることにつながったのです。