なぜ平等で格差が小さい社会ほど幸福度が高いか 「親ガチャ社会」の日本に未来がない納得理由

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経済格差の是正や「平等」ということは、単に理念を唱えれば実現するものではなく、北欧を含むヨーロッパ諸国がそうであるように、「再分配への合意」そして“税・社会保障を通じた支え合い”という発想が不可避となる。

もっと平等や分配と幸福/ウェルビーイングに関する議論を

言い換えれば、“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と呼ばれた昭和の成功体験から来る、「経済成長がすべての問題を解決してくれる」という発想から脱却し、富の「分配」のあり方や、何が平等か、公平かといったテーマを私たちは正面から議論していかなければならない。

平成以降の日本がそうなってしまったように、そのような「分配」の問題を回避して、(“景気”が回復したらということを言い訳の常套句にして)増税など合意が得られないテーマをすべて先送りし、膨大な借金を将来世代にツケ回し続けるような状況から直ちに脱却する必要があるのだ。

希望を込めて言えば、“Z世代”と呼ばれる現在の若い世代は、そうした「分配」や「平等」、「格差」等をめぐる課題群には(環境問題とパラレルに)一定以上の関心を向けている。またそのような傾向は、私自身が大学で過去20年以上にわたり社会保障や関連のテーマに関する授業やゼミを行う中で、かなり以前から感じてきたことでもある。

それは大きくは、昭和的な“経済や人口が限りなく拡大・成長を続ける時代”とは異なる、「成熟社会」を生きる世代の感覚とも言えるものだろう。

ちなみに、先ほどZ世代の関心に関して「環境問題とパラレルに」と記したが、興味深いことに、各国の経済格差(ジニ係数)と環境パフォーマンスを比較すると、概して“経済格差が小さい国(平等度の高い国)ほど環境パフォーマンスが良好である”ことが示されている。

つまり「格差や平等」をめぐる問題と「環境」問題とは実は深く関連しているのである。そして、平等度が高く、環境パフォーマンスの良好な国々において根底にあるのは、(経済成長のみを追求するような志向とは異なる、)自然との関係も含んだ、相互の支え合いや社会的連帯、あるいは公共性の意識だろう。そうした「持続可能な福祉社会(sustainable welfare society)」と呼びうる社会が、おそらく人々の幸福/ウェルビーイングにもつながるのである。

いずれにしても、こうした新たな時代の潮流の中で、本稿で述べてきたような「格差」「平等」ないし「分配」と幸福/ウェルビーイングの関わりについての議論を進めていくことがいま何より求められているのではないだろうか。

広井 良典 京都大学 人と社会の未来研究院教授

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ひろい よしのり / Yoshinori Hiroi

1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務後、96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。2016年より京都大学教授。専攻は公共政策及び科学哲学。限りない拡大・成長の後に展望される「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱するとともに、社会保障や環境、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで幅広い活動を行っている。著書に『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、大佛次郎論壇賞)、『日本の社会保障』(エコノミスト賞受賞、岩波新書)、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)など。

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