米国の原発事情【上】 全米104カ所の原発は安全か? 原子力規制委員会(NRC)による安全性チェックのゆくえ
米原子力規制委員会(NRC)は、全米で稼働中の104カ所の原子力発電所の安全性チェック(3カ月間)を5月12日から開始する。この作業は7月中旬には終える予定だが、注目されるのは地震の影響を受けやすい原発だ。
最も注目されているのはカリフォルニア州の2つの原発で、その1つはロサンゼルスから180マイル(約290キロメートル)離れた太平洋岸のディアブロ・キャニオン原発。もう1つは、やはり太平洋沿いのサン・クレメンテに近いサンオノフル原発だ。前者は、2024年に稼働許可期限が切れる予定だが、その先20年間の延長を申請していた。しかし、東京電力の福島第一原発事故を受けて、自ら耐震チェックをするという理由で申請を取り下げている。
NRCは、104原発のすべてについて稼働継続を許可するものと見られているが、新規原発建設の認可は難航しそうだ。新規申請中の25原発のうち、計画・開発段階のものは15前後ある。NRCは過去30年以上にわたって新規原発の認可はしていない。福島原発事故を受けて、これからも新規認可には一段と慎重になりそうだ。新規建設への障壁は、安全性に対する懸念や反原発感情だけではない。建設コストの高騰や銀行融資を得るために必要な連邦政府保証がおぼつかないこともある。
福島原発事故以来、米国内で際立った反原発運動は起きていない。原発は米国の電力供給の20%を占めており、すぐにも原発から撤収するとか段階的に撤退するということはない。むしろ、地球温暖化防止の観点からも原発を排除することはできない。ただ、福島原発事故で明らかになったのは、原発は必要ではあるが、その利用拡大についてはさらに慎重にならざるを得ない、ということだ。
福島原発事故当初、米国の世論は放射能の灰が米国本土にまで降るのではないかと神経質になったが、最近のギャラップ調査によると、米国成人の58%の人たちが原発は安全だと思っている。調査当局者は「原発支持率は想定以上に安定している」と結論づけている。1つには、米国は日本ほどには自然災害の影響を受けにくいと思っている人たちが多いからかもしれない。