CBRN脅威に対するセンシングのモバイル化・スマート化の技術を磨くことは、脅威の迅速検知により国民の命を守ることに貢献できる。
目指すは、駅や空港など公共交通機関、多くの人が集まる球場やスタジアム、官公庁などに検知器を張り巡らせ、恒常的にモニタリングするシステムだ。いわば、火災にとどまらない超高性能の報知器である。ネットワークに接続することで、サリンなど毒性の強い剤について警察や消防へ自動通報する運用も可能になる。
さらに危機の現場や戦場においては、ドローンや防毒マスクにもセンサーを搭載することで、状況確認や隊員の安全確保に活用できる。
日本でセンシングデバイスなどヘルスケア IoT技術に関する研究開発が進んでいることも追い風だ。日本企業によるバイオチップの社会実装も進んでいる。バイオチップは微量の血液や唾液から、感染している病原体やウイルス、アレルギーなどを検査できる小型チップである。これがバイオ物質のセンシングにも使えると見られている。バイオチップには微細加工や回路設計、パッケージなど、先端半導体の技術も活用できる。
防衛省・自衛隊もセンシング技術に注目してきた。防衛省はアメリカ国防省と2017年から2022年まで化学剤検知紙のモバイル型識別装置について共同研究を実施した。防衛技術指針2023は日本を守り抜く上で重要な技術分野として、より早く正確に情報を得るためのセンシング、そして、これまで見えなかったものの見える化を挙げている。
政府が立ち上げた「K Program」
日本が培ってきたセンシング技術は、経済安全保障という新たな舞台で再び脚光を浴びつつある。
日本政府は経済安全保障推進法に基づき、国として育成すべき先端的な新興技術を「特定重要技術」に指定している。岸田政権は2022年に海洋、宇宙、航空等の分野で27の技術を指定し、その研究開発のため、経済安全保障重要技術育成プログラム(通称:K Program)を立ち上げ、これまで5000億円の予算が措置された。
8月1日、K Programに関する有識者会議が開催され、政府は23の特定重要技術を追加する案を示した。その中に「多様な物質の検知・識別を可能とする迅速・高精度なマルチガスセンシングシステム技術」が含まれた。岸田首相が議長の経済安全保障推進会議と統合イノベーション戦略推進会議の合同会議で正式に決定される見通しである。
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