大量破壊兵器から命守る「センシング」日本の実力 経済安全保障という新たな舞台でも再び脚光

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アメリカも化学兵器を保有していたが、バイデン大統領は7月、化学兵器をすべて廃棄したと発表した。化学兵器禁止条約(CWC)に基づき設立された国際機関、化学兵器禁止機関(OPCW)も、アメリカが申告していた化学兵器の廃棄完了を検証した。これは193のCWC締約国が申告した化学兵器、すべてが廃棄されたことを意味する。

しかしアメリカ政府はロシアとシリアがいまだに化学兵器を保有しており、人々に対する残虐行為で使用してきたと非難している。また北朝鮮も生物兵器や化学兵器を保有しているとみられている。

さらに創薬分野におけるAIの発展は、国家のみならずテロリストによる化学兵器の製造・使用リスクをはらむ。ある創薬AIを殺虫剤や有害物質のデータで訓練したところ、毒性のある分子を6時間で4万も生成した。生成された分子化合物の中には、金正男の暗殺で使われたVXも含まれていた。

世界には大量破壊兵器を使う意思を持ち、また実際に使ってきた国家やテロリストがいる。そうした脅威に、どう備えればよいのだろうか。

CBRN脅威を見える化するセンシング技術

化学、生物、放射性物質、核がもたらす脅威をまとめてCBRN脅威と呼ぶ。噴霧装置が使われたり、弾頭に搭載されたりする場合を除き、CBRN脅威は目に見えにくいという共通の特徴がある。したがってCBRN脅威から国民の命を守るには、まず脅威を「検知」することが極めて重要である。

化学兵器として使われる神経剤は基本的に無臭である。1995年、オウム真理教が猛毒のサリンを散布させた地下鉄サリン事件では13人が死亡、5800人以上が被害を受けた。現場では異臭がしたというが、これは使われたサリンが精製されないままで、純度が低かったためとみられている。無臭であれば、より被害が拡大していたかもしれない。

アメリカ政府はCBRNを安全保障への深刻な脅威とみなし、検知の重要性もよく認識してきた。2022年2月、バイデン政権の国家科学技術会議(NSTC)はアメリカのイノベーションおよび国家安全保障における「重要・新興技術(CET)リスト」を改定した。

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