大量破壊兵器から命守る「センシング」日本の実力 経済安全保障という新たな舞台でも再び脚光

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もともとCETリストはトランプ政権で作成され、20分野の科学技術を指定していた。バイデン政権においてNSTCはリストを見直し、19分野の科学技術とともに、各分野のサブカテゴリーまで細かく指定した。その19分野の1つが「高度でネットワーク化されたセンシング技術」であり、その中にCBRN脅威の検知・測定技術が含まれた。

センシングとは、センサーによって核・生物・化学物質やウイルスなど病原体を検知し、その量を測定しデータ化する技術である。

アメリカがCBRN脅威の早期検知に関心を高めたきっかけは、東京で起こった地下鉄サリン事件だった。1998年にアメリカエネルギー省傘下のアルゴンヌ国立研究所が、化学テロ早期対処のため地下鉄に化学剤センサーを設置するPROTECTプログラムを開始した。

さらに2001年に起きた炭疽菌テロ事件を受け、国土安全保障省(DHS)はバイオテロ早期検知のためBioWatchプログラムを発足し、2003年以降、アメリカの主要な地下鉄の駅には化学剤・生物剤の検知器が目立たぬよう設置されてきた。

しかし、偽陽性による誤検知が多発した。ランニングコストも高額だった。駅でスイッチを切られてしまったセンサーも多い。

新型コロナで注目が集まるバイオセキュリティー

一方で、日本でも地下鉄サリン事件、炭疽菌テロ事件を受け、2000年代に警察庁科学警察研究所や科学技術振興機構(JST)が数社の日本企業とともに、検知機器の研究開発を進めた。

アタッシュケース型の「BioBulwark」はバイオテロで使われる可能性が高い約20種類の病原体を1時間程度で検出できる。これは複数の警察に配備された。また神経剤など化学剤を識別できるポータブル型検知器も国産できるようになった。

しかし、いずれも社会実装に成功したとは言いがたい。その一因は、国内の需要が限られていたためであった。開発企業が外国政府に販路を求めても、日本でどれほど普及しているか聞かれ、答えに窮した。また生物剤、化学剤を使って機器を評価するには高度安全試験検査施設(BSL-4施設)を有する研究機関や自衛隊、海外の軍の協力が欠かせないが、そのための連携体制も不十分だった。

新型コロナ感染症が中国から世界へ広がったことを機に、改めてバイオセキュリティーに注目が集まっている。日本のセンシング技術が世界の表舞台へ躍り出る、絶好のチャンスだ。

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