彼女は、「ハック」や効率に取り憑かれたシリコンヴァレーの言葉で語っていた。だから、スティーヴンは耳を傾けるしかなかった。
彼女の言葉について考えたスティーヴンは、気づいた。「そのとおりだ、どっちみちやっているんだ。それに注意を払うぐらい、できるだろう、と」と彼は語った。
「そして、それで私は変わりました」。彼にはわかっていた。意識の中のこの変化がなかったら、健康を害さずに猛烈な働き方を維持できていなかっただろう。
以後、スティーヴンはその瞬間その瞬間の呼吸に注意を払うことに取り組み続けており、それが内部の静寂への入口として、しだいに効果を増している。
彼は、3回続けて呼吸をし、注意を払えば、それだけでいい、という忠告を守ってきた。会議のときにも、通勤の途中でも実行する。私たちに話している間にも、そうした。
彼は、日々の生活の慌ただしさのただ中でも、この空間に静寂を見つける。「もう20年以上になるのに、ほとんど同じことをしています」と驚いたように言う。
私たちはスティーヴンの単純な方法がおおいに気に入った。すでにしている呼吸の一部に、ただ今まで以上に注意を払えばいいのだ。
呼気と吸気の動き――と、特に両者の間の空間――をもっと自覚すると、意識の中に静けさが生まれる。何が起こっているかがすんなりわかる。
そして、もし静かな時間を数分見つけられて、もう少しだけ努力してみたくなったら、呼吸にもっと深く入り込み、より深遠な種類の内部の静寂に出合うこともできる。
「アイスマン」の呼吸エクササイズ
風変わりで途方もない人気を誇るオランダのウェルネス(健康維持・増進)の権威ヴィム・ホフ(凍るように冷たい水に何時間も浸かったり、シャツも着ずにエベレストに登ったりするのを好むことから、「アイスマン」という通称でも知られている)は、一種のヨガ風の呼吸エクササイズを普及させた。
そのエクササイズは、深く息を吸い込み、素早く吐き出すことを30回ほど繰り返し、それから肺を空にしたまま、できるだけ長い間休止することを軸としている。