台湾が半導体の次を目指して励む産業育成策 スタートアップ支援で日本との協力も視野に

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――ただ日本では台湾有事のリスクが懸念されています。

あらゆるプロジェクトにはリスクがある。洋上風力発電が東アジアでなかなか進まなかった背景には台風や地震への懸念があった。それが今では技術的に克服できることがわかった。

地政学リスクは違うと言われそうだが、台湾と同様のリスクは東アジア各国が直面している。韓国はつねに北朝鮮のリスクを抱えており、日本も1990年代以降、北朝鮮のミサイル脅威を受けてきた。台湾はすでに70年以上も有事のリスクを受け続けている。それでも発展してきた。他国が台湾情勢よりも緊迫していないとは必ずしも言えないだろう。

(台湾企業に製造を委託する)顧客の観点からいえば、サプライチェーンや発注先を分散したいだろう。アメリカの半導体大手エヌビディアもTSMCが強くなりすぎては価格交渉に影響するため、サムスンなどに分散しようとしていたとされるが、またすぐにTSMCに注文量を戻したとみられる。地政学リスクが存在しなくても顧客は分散化したいわけだが、高い技術力があればサプライチェーンの中で無視されない。

世界のIT産業が今のように発展したのはTSMCの貢献によるところが多い。アメリカ半導体大手のAMDは半導体製造部門をグローバルファウンドリーズという企業に切り離したが、先端半導体はTSMCに発注するようになり、TSMCとともに成長していった。

(TSMCは)受託製造(ファウンドリー)専業にもかかわらず粗利益率は50%超。ここまで成長したことには驚いている。

スタートアップ支援拠点が90カ所

――新たな産業育成策として、スタートアップ企業の支援も行っています。

スタートアップ企業は既存の産業の慣習などの影響を受けずに自由な発想で新しいビジネスモデルを生み出す可能性がある。既存の大企業はどうしてもすでにある競合との競争にリソースを向ける必要があり、新事業に集中しづらい。スタートアップが産業の大きな活力になると期待している。

2016年にアジアシリコンバレー構想を掲げた。台湾がシリコンバレーのようになるなんて誰も信じなかったが、基金や企業サポート体制など環境整備を行い、今では世界各地で台湾発のスタートップ企業が上場するようになった。

日本でもAIの開発とサービスを行うAppier Group(エイピアグループ)が上場した。台湾はもともとアメリカのシリコンバレーと人脈的なつながりも強いが、その強化も進め、台湾のスタートアップの商機を拡大させていく。

台湾各地で創業やスタートアップ企業を支援する公的な拠点やインキュベーション施設が90カ所できている。技術をもつ大学教授らには大学発ベンチャーとしてスピンオフを奨励しているほか、創業に関心をもつ学生向けの授業も準備されている。特に修士・博士課程の学生が自分の先生たちが起業するのを見て学んでいる。

日本では大学卒業後に優秀な学生は大手企業に入社するのが第一志望で、その後も大企業で働くキャリアを優先すると聞く。しかし、台湾は違う。たとえばトップの台湾大学医学部を卒業しても医者にならず起業するケースも多い。

私が台湾経済研究院の副院長を務めていた時にも若い社員がやめるという話をよく聞いた。

【2023年8月9日11時00分追記】初出時の表記に誤認があったため、上記の通り修正しました。

彼らに話を聞くと海外に留学したいという人もいるが、多くはもうすぐ30歳になるから起業する最後のチャンスだと言う。

起業はその人たちの人生の夢や理想を実現させる可能性がある。台湾では多様な人生スタイルに価値を見いだす若者が多く、政府もそれを支援する。成功するときもあれば失敗するときもあるだろうが、失敗してももう一度やりたいならやってもらうなど、一定期間はやりたいことをやって成長を目指す機会をもてるようにしたい。

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