台湾が半導体の次を目指して励む産業育成策 スタートアップ支援で日本との協力も視野に

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――海外から見ると台湾は国が産業支援を積極的に行い、TSMCのような存在を外交カードにしているようにみえます。政府の産業への関わり方はどのようなものですか。

黎明期の産業分野で民間にとってリスクが高い場合は投資環境やインフラ整備を政府が担う。たとえば、現在台湾は洋上風力発電に注力しているが、これは台湾にとって新しい産業であり、開発能力や技術は不足している。そこで海外企業に技術協力をお願いしてもらうが、外資系企業が台湾で投資できるように制度やインフラを整える。

ただ、あくまで民間主体の発展を促すのであり、市場や事業の発展が軌道にのれば政府は介入を避けていく。今や台湾の代表的な産業である半導体も同様だ。

きょう・めいきん 台湾・輔仁大学統計学系卒、国立台湾大学修士課程修了、国立中興大学(現国立台北大学)博士課程修了、博士(経済学)。淡江大学助理教授、台湾経済研究院副院長、国家発展委員会副主任委員、経済部(経済省)政務次長などを経て、2020年より現職。

当初TSMCには政府が48%出資(ほかフィリップスが27.5%など)していた。現在、行政院国家発展基金会の持ち株は6%程度だ。まあ、時価総額が大きいのでこれでも1兆台湾元(約4.5兆円)ほどの規模だが。

私も主要株主である政府の代表としてTSMCの取締役であるが、あくまで企業統治(ガバナンス)の面で意見するのみだ。現在TSMCは日本を含めて世界に工場を設置して拡大をしているが、政府がどこに投資せよなどと言うことはないし、経営方針などで「こうすべきだ」などと指導はしない。

成長戦略や投資など経営判断は民間がすべき。長く産業をみてきた彼らのほうが詳しいに決まっているからだ。

カーボンニュートラルも脱原発も

――台湾の洋上風力発電では日本企業もプロジェクトに参入していますが、外資系企業を優遇することに台湾で反対はないのでしょうか。

産業発展には段階がある。台湾は2050年にカーボンニュートラルを目指すとともに脱原発も掲げる。エネルギートランジションに急を要している中、技術力がある外資に台湾に来て投資してもらうことで私たちも多くの学びを得られる。

実際の開発や建設技術だけでなく、洋上風力発電分野でのプロジェクトを遂行するための資金調達の手法や保証制度の枠組みも経験のなかった台湾の金融機関は学んでいる。これらのノウハウがたまり、台湾に参入する外資系企業とともに台湾企業も事業に加わることができるようになった。

さらに台湾企業との協力で新たな技術や知見も出てきて、それを生かしてほかの第3国に一緒に展開することも視野に入る。

今の日本が半導体などで「完全国産」の企業を目指そうとしているのは私も知っている。ただ、それはもうしばらく時間がかかるのではないか。台湾は日本の隣人でまったく知らない外国ではない。多くの日本企業が台湾で投資や事業を行っているように台湾も日本ととてもいい協力ができる。

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