同社がまず特定したビジネスパーソンのインサイトは「会社の出張費でポイントを貯め、それをプライベートの割引に活用することが出張族の密かな楽しみ」である。
価格弾力性が低く、同社クラスのホテル代なら、企業が支払える価格帯に設定する。
さらに、会社の経理に言えない、もう少し深いインサイトは、「急な出張を強いるのは会社都合なのだから、ホテル料金は高くなる。多めにポイントをもらえるくらいの余禄があってもよいよね」だと考えれば、同社の勝利の打ち手はダイナミック・プライシングにあると、私は理解している。
ビジネスモデルの8割は「真似」
■業界の外からダイナミック・プライシングを持ち込む
このビジネスモデル・イノベーションは、もともとは航空業界の手法である。そのため、同社のダイナミック・プライシングは世界初の取り組みではないが、日本のビジネスホテル業界に本格的に持ち込んだ企業がアパホテルなのだ。
「ダイナミック・プライシング」についてはのちほど説明するが、こうしたビジネスモデル・イノベーションを生む思考法を「アナロジー思考」と呼ぶ。
アナロジー/Analogy(類推思考)とは、他の業界の事例をアイデアの発想のもとにすることだ。単なる真似ではなく、新たなアイデアの追加が必要で、世の新規ビジネスモデルのうち80%は他業種にある業態の真似である、といわれる*。
シュンペーターの新結合の思想に同じく、新しいアイデアは既にあるアイデアの組みあわせが多いのだ。
■ギリギリまで最高値で販売できるAIシステム
アパホテルの戦略は、「直販+ダイナミック・プライシング」だ。価格は市場ニーズに応じて一物多価で常に変化させ、価格支配力を維持する。
他社は予約サイトとの力関係上、どうしても値下げに応じて予約サイトへの割り当てを提供しがちだ。しかしアパホテルはTV広告やデジタル・マーケティングで顧客が直接予約サイトを訪れ、決済するまでをうまく誘導している。
また、コロナ禍で窮地に陥った多くのホテル事業者を底値で買収しており、これを「逆張りの投資」と呼んでいる。これまでにも幾多のホテル・観光・不動産不況時に、強靭な財務力と元谷外志雄会長の逆張り発想で、業績が低迷したホテルを底値で買収して事業規模を拡大してきた。
マーケティング・ミックスとそれを支えるシステムとしては、宿泊当日の予約が一番高価格で売れることから、キャンセル料は無料で、ギリギリまで最高値で販売できるようにAIシステムを導入している。最終判断はAIを参考にして各ホテルの支配人がそれぞれ全権を握り、効率的に稼働率を向上させつつ、平均単価をあげる仕組みがある。
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