「診療に関連する死=医療事故」とはいえない理由 医師が解説「医療事故の仕組みと制度のこと」
横浜市立大学の事件では、2人の患者が、それぞれ心臓手術と肺切除手術を受けるべきところ、取り違えされて必要のない手術を受けました。
この事件では患者はいずれも生命に別状はなかったのに対し、都立広尾病院事件では、整形外科で指の手術をした後、抗菌薬を投与すべきところ看護師が誤って消毒液を点滴で入れた結果、患者が死亡したのです。
医療事件は刑事事件なのか
実は現在まで、「医療事故や医療過誤を警察に届け出る日本の法律」はありません。しかし、この都立広尾病院事件を契機に医療者も「医療機関内で発生した死亡事故全般を警察に届け出なければならない」と誤った解釈をするようになり、2000年から急峻な増加が見られたのです。
コロナ禍でも医療崩壊が叫ばれ、さまざまな書籍が出版されました。この医療崩壊についての初出は、小松秀樹著の『医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か』(朝日新聞社・2006年)です。
<現在の日本の医療機関は、「医療費抑制」と「安全要求」という矛盾する2つの強い圧力にさらされ、労働環境が悪化し、医師の士気が低下しがち。これにより、萎縮医療と防衛医療が蔓延し、医師がリスクの高い診療科の病院から立ち去り、一部地域における救急医療・周産期医療科の激減、患者のたらいまわしなど、医療制度の機能不全という禍根を残した現状の深刻さを訴えた>
というのが、この書籍です。 刑法を盾に、警察と世論を背景としたマスコミが医師を追い詰めることに対し、警鐘を鳴らしました。
その後、医療事故調査制度もさまざまな研究により、「刑事責任を追及しても、医療事故の再発防止効果はほとんど望めない」ことがわかり、医療の刑事事件化傾向は、医療の質を向上させることには結びつかないことが、少しずつ認知されるようになりました。
これにより、前述の「医療事故は警察届出」の誤解は、司法では2004年4月の最高裁判所判決で、行政府では2012年10月26日の厚生労働省検討会での厚生労働省医事課長の言質で、そして立法府では2014年6月10日の参議院厚生労働委員会での厚生労働大臣の答弁において、やっと収束し今にいたります。
次回は、日本の医療事故と医療安全について、詳しくお話ししたいと思います。
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