最近では、屋久島は「脱炭素に一番近い島」とも呼ばれる。鹿児島県地球温暖化対策室が作成した、屋久島を対象とする冊子の表紙にもそう記されていた。
冊子では「CO2フリーの島づくり」という観点で屋久島を紹介している。例えば、標高500m以上に自生し、推定樹齢が1000年以上で保護区原生林にある「ヤクスギ」。中でも「縄文杉」や「白谷雲水峡」が、人気観光スポットとして名高い。また、建築物やお土産品などには、戦後に植林された「地杉(じすぎ)」が用いられている。こうした杉の森林がCO2を吸収する。
そして、改めて日本全国から注目されているのが、屋久島の水力発電だ。超高雨量という自然環境を生かし、町で使われる総電力のなんと99.6%を水力発電が担っている。残りの0.4%については、災害時等でのバックアップ電源として、重油による火力発電等がある。
水力発電を行うのは地元の電熱化学工業
島の水力発電は、民間企業の屋久島電工が維持・管理をしている。だだし、同社の主業は発電事業ではない。約170名の従業員のうち、水力発電に係わる人員は約20名にとどまる。
事業の中心は、電熱化学工業だ。主な製品は、炭化ケイ素(SiC)。同社では「ダイヤシック」というブランド名で販売している。
SiCは高温での耐熱性に優れ、シリコンと比べて3倍程度の熱伝導性と、ダイヤモンド等に次ぐ高い硬度を持つ。ディーゼル車の排ガス処理フィルターや半導体製造装置の構成部品などの原料に用いられ、BEV向けなどのパワー半導体への対応から今後、需要が高まることが期待されている。
こうしたSiC製造には自社で大量の電力を必要とするため、水力発電設備を自社で運用しているというのが、屋久島電工の実態だ。
それでは、なぜ屋久島電工が屋久島全体の電力を賄うことになったのか。かつて島の各集落には、重油を燃料とする小型発電機があった。それが、昭和30年代に入り、家電の需要が増えたことや、発電機が老朽化したことで新たな発電システムの必要性が高まっていった。
そこで、屋久島の地元企業である屋久島電工が「地域発展に貢献する」という会社設立理念に基づいて、「いち製造業者として屋久島全島の電力供給義務はない」としながらも、公共的視野にもとづいて島を支えることになったという経緯がある。
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