電力供給システム全体についても、めずらしい形式をとっている。島内を4つのエリアに分けて、上屋久町電気施設協同組合、種子屋久農業協同組合、安房電気利用組合、そして九州電力のそれぞれが、屋久島電工から電気を購入して各エリアに配電している。
まさに、島で暮らす人々がエネルギーに対して「助け合って生きている」と言える。
インクラインに乗って発電設備を見学
実際に、水力発電の現場を巡った。まずは、1963年に完成した尾立ダムだ。この尾立ダムは、1952年から島で最も水量が多い安房川(あんぼうがわ)水系を開発して作られたもので、標高は約600m。このあたりで、年間降水量は7000mmを超える。
担当者は「年間を通じて水がなくなることはまずない。水力発電所は初期投資が大きく、その後は維持・管理が主な仕事。ここは山岳地帯なので、電線にかかる木の伐採などの小まめな手入れが必要」とダム事業の全容を語る。
発電所は、安房川第一発電所、千尋滝発電所(現在は豪雨災害の影響で休止中)、安房川第二発電所の3カ所。尾立ダムから安房川第一発電所までの距離は1km程度だが、川が途中で曲がりくねっており、第一発電所でも東京タワーの高さに匹敵する334mの落差がある。
そのため水量は、水力発電としては決して多くない1秒あたり約8.4トンだが、大きな高低差によって十分なエネルギーを得られ、出力は2万3200kWにものぼる。
また、標高の低い位置にある安房川第二発電所では、千尋滝発電所とほかの川の水流も使い、最大13トンの水量で3万4000kWを発電している。すべての発電所が稼働した場合の総発電出力は、 5万8500kWだ。
このうち「約25%を島民の方に使っていただいている」とし、残りの75%を屋久島電工の自社向けとしている。
そのため、仮にダムの水量が減って発電量が下がった場合、いわゆる計画停電をするのではなく、自社事業向けの電力消費を抑制して、島内全域向け電力を確保(前述のバックアップ電源としてのディーゼル火力発電も併用)。あくまでも、地域に対する社会貢献という考えによって、島の暮らしが守られているのだ。
安房川第二発電所にある発電システム全体の管理センターを見学したあと、第二発電所の発電機がある場所まで移動した。発電所の管理棟の位置から約170m下まで斜度21度の通路を、屋根など囲いがほとんどないケーブルカーのようなインクライン(傾斜鉄道)で降りる。
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