筆者の屋久島滞在の少し前、鹿児島日産が「サクラ」や「リーフ」の販売促進イベントを島内で実施していたようだが、滞在中に見たBEVは空港で見たリーフのタクシー1台だけで、BEVはまだめずらしい存在のようだった。町によると、島内のBEV普及率はまだ約2%で、日本国内の平均的な地域と変わらない。
これから島内で走り出すQ4 e-tronの価格は、600万~700万円である。アウディをきっかけに、購入者が一気に増えることもないだろう。
それでも、島民に「屋久島が変わろうとしている」という実感は芽生え始めているだろうし、「BEVが島を守ることつながるのかもしれない」という意識を持つ人が今後、増えていく可能性も十分にある。
観光客視点でも、アウディ提供の充電設備のほか、一般公開している急速充電器が4カ所、普通充電器が9カ所あり、「脱炭素に一番近い島」を体感するために「BEVに乗ってみよう」という意識が高まるかもしれない。
次のステップへのきっかけになる
次は、アウディの視点だ。アウディとしては、実売効果よりもESG投資としての意味合いが強いだろう。ESG投資とは、従来の財務情報だけではなく、環境、社会性、ガバナンスを重要視する投資のことで企業価値に直結するものだ。
アウディは、2026年までにグローバルで販売する新型車の100%をBEV化し、2033年までに内燃機関の生産を終了すると、中長期ビジョン「Vorsprung(和訳:もう一歩先に)2030」の中で宣言している。サステイナブル・フューチャー・ツアーは、それを受けてアウディジャパンが独自に企画したものだ。
また、今回のツアー実施のきっかけを作ったアウディの販売会社、ファーレン九州としても、「BEVの社会的使命」という切り口での良きマーケティング要素となるだろう。
屋久島町についてはどうだろうか。短期的には、観光が主要産業である屋久島にとって、PR効果が見込める。また、鹿児島県がいう「脱炭素に一番近い島」の実現に向けた具体例として、今回の連携協定が次のステップへのきっかけとなるはずだ。
そうした社会の風潮やメディアでの露出の影響をうまく活用して、今回参加した地元高校生のような若い世代に、「次の時代でもこれまでと同じように、皆で力を合わせて島を守っていこう」という意識が根付くことを期待したい。
またBEV導入は、島の課題を抜本的に解決する可能性を秘めているという見方もできる。屋久島町の荒木耕治町長は、「未来共創ミーティング」で「島の課題」を大きく2つ示した。
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