民間初の宇宙ごみ除去装置生み出した発想の転換 タブーに挑み切り開く!アストロスケール・伊藤美樹

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また、組織のカルチャーも円滑な開発を進めるうえでは非常に大切な要素です。

当社には日本の宇宙業界を牽引してきた60代、70代のレジェンドクラスの技術者も多く在籍しているのですが、若手ともフラットにコミュニケーションを取っています。

バックグラウンドの異なるメンバー同士がお互いに学び合う風土は、今までに誰も実現したことのない技術やサービスを生み出す際の土台になっていると思います。

「宇宙のロードサービス」に挑戦

──アストロスケールは、今後どのような事業展開を計画しているのですか?

設立以降、スペースデブリの除去事業にフォーカスしてきましたが、それだけではなく、今後は宇宙のロードサービス「軌道上サービス」としてさらに展開していきたいと考えています。

地上では自動車・船舶などの業界においてアフターサービスを含むバリューチェーンが整っていますが、宇宙ではまだそのアフターサービスが整っていません。

人工衛星の燃料を補給するガソリンスタンドはありませんし、衝突事故が発生したとしても現場を整備する術がありません。そもそも衝突しないようにするための道路交通法のようなルールすらない状況です。

しかし宇宙開発の進展に伴い、車で言うロードサービスのような仕組みが宇宙にも必要になるのは間違いありません。

「軌道上サービス」の開始は30年を目標としており、23年度にはその実現に向けたステップとして人工衛星『ADRAS-J』を打ち上げる予定です。

──スペースデブリ事業からさらに範囲を広げて、より包括的に宇宙環境を支えるサービスの実現を目指すのですね。

これから宇宙開発がどんどん進んでいく宇宙環境を維持するには、スペースデブリの除去だけではなく、宇宙を長く使い続けられるシステムそのものが必要とされています。

そして、従来の宇宙産業では一機開発が普通でしたが、これからは量産の時代に入ります。私はここに民生技術のノウハウが大いに生かせると考えています。

量産の技術を構築しコストダウンに挑戦する過程で、いかに地上の技術を宇宙にカスタマイズできるか。

つまり、いかに宇宙業界の常識を壊していけるかが、これからの私たちにとって最大のチャレンジになるでしょう。

アストロスケール 上級副社長
伊藤美樹さん

日本大学大学院航空宇宙工学修士課程(博士前期課程)修了。次世代宇宙システム技術研究組合にて、内閣府最先端研究開発支援プログラムである超小型衛星『ほどよし』の開発プロジェクトに参画。2015年4月アストロスケール日本に入社、代表取締役に就任。エンジニア業務も兼務し、デブリ除去衛星実証機である『ELSA-d』の開発に取り組んだ。2023年2月より現職。

取材・文/一本麻衣

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『エンジニアtype』編集部

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