10年で1人前の「寿司職人」3年で握らせる店の狙い 早く握りたい若手も多く、離職率も課題にある

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寿司職人の育成ということでは、日本で初めてとなる寿司職人学校の東京すしアカデミーがよく知られている。2002年の開校から5074人以上の卒業生を輩出。魚の捌き方、寿司の握り方、お造りの盛り方といった技術を、最短2カ月で習得可能だ。坂上氏は違いについて説明する。

「『鮨 銀座おのでら 登龍門』は学校ではなく鮨店です。『鮨 銀座おのでら』の店舗で握れる職人を増やすために、人材を育成しています。お金を支払って技術を学ぶのではなく、お客様からお金をいただきながら技術を学ばせていただくので、目的意識や緊張感がまるで違いますね」(坂上)

新卒1年目は追い回し(雑務を担当。つねに追い回されるように作業することから、そう呼ばれている)、2年目はカウンターで寿司職人をサポートする手子(てこ:寿司職人の卵)となり、3年目から、坂上氏が「真剣に仕事に対峙している」と目をかけられた者が「鮨 銀座おのでら 登龍門」に配属され、握り手となる。

ここで研鑽を積み、坂上氏から心技体が揃ったと認められれば卒業だ。卒業後は「鮨 銀座おのでら」に異動し、客単価3万円以上の客の前で寿司を握る。

ニューヨーク店で働く卒業生も

「鮨 銀座おのでら 登龍門」から卒業することは「昇り龍」と呼ばれており、2022年9月1日に佐藤亮平氏が第1号に、2023年6月1日に小林航大氏が第2号となった。1号となった佐藤氏は海外で働きたいという希望が通り、現在「鮨 銀座おのでら ニューヨーク店」で握っている。

卒業したばかりの小林氏は「鮨 銀座おのでら 登龍門」に配属された頃を振り返る。

「当時は気持ちがネガティブになっている頃でした。でも、仕込みや握りなどすべて自分でやることによって、やりがいが感じられるようになっていったんです。それまでは、必要なのは技術だけだと思っていましたが、実際にお客様の前に立つことによって、サービスや心の持ち方などが非常に大切であることも学びました」

銀座おのでら
小林航大氏(写真:筆者撮影)

いつかは「昇り龍」になるものと思っていたが、8カ月での卒業は予期できなかったという。

「お客様にはだいぶ育てて頂きました。日々鍛えて頂き、積み上げてきたことで自信もつきましたね。『昇り龍』となったからには、後輩から憧れられ、目標とされるように引き続き励みたいです」(小林氏)

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