「経産省案はエネルギー政策の長期展望欠く」 どうする電源構成<5> 名古屋大・高村教授

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高村氏は、太陽光と風力について経産省案より伸ばせると主張(写真:M・O/PIXTA)
4月28日に経済産業省が提示した、2030年の望ましいエネルギーミックス(電源構成)案の問題点は何か。どのように見直すべきか。今回は、地球温暖化問題の専門家で、エネルギーミックスを議論する長期エネルギー需給見通し小委員会の委員を務める高村ゆかり・名古屋大学大学院環境学研究科教授(専門は国際法、環境法)に聞いた。

――エネルギーミックスの経産省案について、議論に参加した委員の一人としてどう受け止めていますか。

3.11の福島原発事故後、国内のエネルギーの状況は誰もハッピーとは言えないものだった。電源の8~9割を化石燃料に依存していることや、エネルギー自給率の低下、燃料費や国民負担の増加など非常に問題が多く、その点については小委の委員の中でも異論はなかった。

また、福島事故後、エネルギー政策と行政・エネルギー事業者に対する国民の信頼感が失われたことは、(2014年4月策定の)エネルギー基本計画にも書かれている通りだ。だからこそ、福島事故を踏まえた、今までとは違う、より持続可能なエネルギーシステムをどうやって構築していくかが議論の出発点として認識されていた。

そうした観点から見て、今回の経産省案では省エネルギー(17%削減)について、まだ余地はあるとは思うが、かなり細かく積み上げられたと評価している。また、コージェネ(熱電併給)については(電源構成で)10%強という数字が出されたことは、今までにない一つの成果だとは思う。

原発が想定通り動かなければどうするのか

ただ、残された問題点は、本来明らかにすべき長期的な展望が欠けていることだ。一つは、原子力の電源構成について。経産省案は20~22%としたが、運転期間40年の原則にのっとれば、2030年にうまくいって15%程度となる。その差の部分は、(最長20年の)運転延長、または新増設やリプレース(建て替え)を行わないと確保できない。しかし、原発の稼働には安全基準による審査や地元同意が必要であり、再稼働や運転延長ができるかは定かではない。新増設やリプレースについても、政府は想定していないとしたままだ。

懸念されるのは、もし想定通りに原発が動かなかったときにどうするかだ。原発の比率を高く想定すればするほど、想定通り動かなかった場合に、今の状況が繰り返されることになる。つまり、化石燃料を大量に輸入して焚き増すしかなくなる。代替の国産電源が少ないと、足元を見られて、高い燃料を買わされる。こうしたことを繰り返さないためにも、代替の国産電源である再エネを経産省案の22~24%を超えてもっと最大限増やすべきだ。原発が想定通り動くという期待値だけで、その後のことを考えないのは、長期的な自給率確保の観点からも責任ある政策とは言えないのではないか。

――2030年時点の電源構成を決めても、その後の政策や展望がはっきりしません。

2030年というのは、あくまで通過点でしかない。原発を運転延長しても、いずれ原子力依存度は低下していく。そのあとにどのように持続可能なエネルギーシステムにしていくのかという答えがまだ出ていない。もし新増設やリプレースが必要というのならば、真正面から議論して国民に信を問うべきだ。

2030年以降の日本経済を展望した場合、経済構造が変われば、電力需要が3割近く減るという予測もある。そうしたビジョンの違いも含めて議論しないと、現状の積み上げでしかなくなり、国民が選択できる形ではなくなる。

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