「経産省案はエネルギー政策の長期展望欠く」 どうする電源構成<5> 名古屋大・高村教授

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――近年の石炭火力発電所の新設計画ラッシュについては、規制をかけるべきでしょうか。

温暖化の観点から規制をかけるべきだと思う。今回のエネルギーミックスの経産省案でも、石炭火力の電源構成比は26%程度とされ、現状からほとんど増やさない形になっている。つまり、新設には既存の発電所が廃止されるのが前提と理解され、そのためには一定の規制が必要となる。

規制の内容については、今やろうとしている事業者の自主規制ではうまくいかないだろう。電力会社が地域独占で営業する場合なら、ある程度の調整ができようが、新電力も入って自由競争が激化していく中、業界内で調整するインセンティブは働きにくい。石炭火力の最大の懸念は環境適合性であり、業界一律で最低限守るべきCO2排出量の基準を国として設定すべきだ。環境対応強化で石炭火力のコストが上昇すれば、ガス火力の競争力が増し、効率の悪い石炭火力の淘汰にもつながる。

老朽原発が増えるのに事故リスクは下がる矛盾

――4月27日に経産省の発電コスト検証ワーキンググループがまとめた結果についてはどう見ていますか。

28日のエネルギーミックス会合の直前であり、じっくり検証する時間がなかったのが実情だ。そのため、もっと議論が必要だと思うし、2011年のコスト検証時と同じように、発電コストに関する他の研究成果も合わせて議論するプロセスがあってもよかったのではないか。

内容的に気になる点として、一つは再エネの系統安定化費用が過大に感じられることだ。ここは欧州の事例などを参考に、自分でも精査をしたい。また、原子力の予備力コストについて、まだ定量化できていないということだが、これも検討が必要だろう。もう一つは、再エネの政策経費に関して、FITのIRR(内部収益率)相当分がこれに当たるとされる点だ。2030年には太陽光もFITを卒業しているとすれば、もっと縮減されてしかるべきだ。

――原発のコストについては、追加安全対策によって過酷事故の発生リスクが半分になると想定されました。

原発のコストの問題点は、まず上限がはっきりしないこと。福島第一原発事故の廃炉・賠償費用がどこまで増えるか見えない現状、損害費用の想定は難しい。そのため、原発のコストが今回、1キロワット時当たり「10.1円以上」とされ、最も安く見えるが、そうとも言い切れない。

安全対策で事故発生リスクが下がって、事故リスク対応費用も下がるというが、それは2030年のモデルプラントを想定した方法論だからではないか。実際には、2030年には既存の原発を運転延長して動かしているものと想定され、運転40年、50年以上の老朽原発が数多く稼働している状況で果たして事故発生リスクは下がるのか、非常に疑問だ。モデルプラント方式というのは他の電源と横並びにするためのものだが、われわれが知りたいのは現実のコストであり、原発のコストについて現実のコストがわかる方法論もとってほしい。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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