経産省の狙いは「原発比率を下げないこと」 公約に反し、原子力の比率を高めに誘導

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原子力発電はひとたび事故が起きれば深刻な事態に。写真は福島第一原子力発電所の事故直後に避難する人々(写真:AP/アフロ)

「こんなことは言いたくないが、この委員会(の議論)を聞いていると、どうしても原子力の比率を上げたい、上げたいという雰囲気が伝わってくる」

橘川武郎・一橋大学大学院教授(4月から東京理科大学大学院教授)はそう苦言を呈した。3月30日に経済産業省が開いた総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会(委員長は坂根正弘・小松製作所相談役)の第5回会合でのことである。

この小委では1月30日の第1回会合以来、2030年の望ましいエネルギーミックス(電源構成)について有識者の委員14人が議論している。2010年度には火力61%、原子力29%、再生可能エネルギー10%(うち水力9%)だった。東日本大震災後に原子力発電所が相次いで停止していった結果、2013年度は火力88%、原子力1%、再エネ11%(うち水力9%)となっている。これを長期的にどうするか。

経産省の狙いは原子力比率25%程度か

第5回会合では、事務局の経産省が「各電源の特性と電源構成を考える上での視点」と題した資料を提出。この中で、地熱、水力、原子力、石炭火力をベースロード電源(発電コストが低廉で、安定的に発電できる電源)と定義したうえで、ベースロード電源比率を大震災前と同水準の6割程度に維持することが国際的に見て望ましいとの考えを示した。

経産省は、2030年における地熱と水力の導入見込み量について、それぞれ最大で98億キロワット時、953億キロワット時と推計している。仮に2030年の総発電量が震災前の2010年度並み(約1兆キロワット時)とすると、両者合わせて約10%。また、石炭の比率は現在30%だが、震災前は25%程度。二酸化炭素排出量の多さを考えると、増やすのは限界がある。となると、ベースロード電源比率6割を維持するには原子力の比率を少なくとも25%前後にする必要がある。

経産省の狙いは、原発比率25%程度にあるのだろう。原発比率をストレートに出さず、ベースロード電源比率という形でひとくくりにしたのは、4月12日の統一地方選への影響を考えたからかもしれない。原発比率25%だとすると、震災前からほとんど下がらないことになる。「原発依存度をできるだけ下げる」というのが政府の公約なのだから、国民の多くは納得しないだろう。

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