理研が逸材を中国に流出させた「アカハラ」の全貌 講座制のもとで若手研究者が直面する不条理

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理研は卓越研究員としてA氏の雇用を文部科学省に申請した際、文科省の所管で卓越研究員事業を担当する日本学術振興会に、A氏の雇用期間は原則7年間だと伝えていた。つまり、理研は事実と異なる申請によって、卓越研究員の研究支援金を得ていたことになる。

この問題は2023年5月22日に国会でも取り上げられており、永岡桂子・文部科学大臣が「(理研からは)報告内容が一部適切でなかったと聞いている。今後、理研にはこのようなことがないよう改善を図ってもらいたい」と答弁している。

A氏の事案について、理研に事実関係や見解を求めたところ、「現在行っている調査に関する事項、もしくは調査の対象となる可能性がある事項が含まれるため、回答は差し控えさせていただく」(広報)とのことだった。

講座制が日本凋落の原因

実は、A氏はいま、自身の雇い止めに関する取材はすべて断っている。理研の五神真理事長に連絡して調査を約束してもらったため、調査に影響を与えたくないことが理由だという。そこで、A氏に日本の研究環境についてどう感じているかを尋ねてみた。

するとA氏は、「40歳を過ぎて教授になるまでは自由に研究できないのは日本だけ。日本独自の講座制が、日本のアカデミック凋落の主因なのではないか」と指摘した。そのうえで、中国の大学に移った理由については、「いずれ自分が後進の指導をする立場になったときには、講座制はもうやめるべきだと言わなければいけない。そのためにも、実際に講座制ではない海外で研究を経験しなければいけないと思った」と語った。

理研の雇い止めで日本を去ったA氏だが、それはトリガーとなっただけに過ぎない。問題の本質は、若手の意欲的な研究や論文執筆を阻む、日本独自の講座制そのものにあるのではないか。

日本は科学技術立国を掲げながら、論文数などの重要指標の世界順位は下がる一方だ。重鎮の研究者の介入によって、優秀な若手研究者が自由に研究したり論文を出したりできない状況が、大きな悪影響を及ぼしているとみられる。その原因となっている講座制の問題に手を付けなければ、日本の科学技術力の浮上は難しいかもしれない。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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