理研が逸材を中国に流出させた「アカハラ」の全貌 講座制のもとで若手研究者が直面する不条理

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こうした事態は、日本の学術界では珍しいことではない。日本独自の講座制による上下関係があるからだ。簡単に言えば、中心となる指導的立場の研究者がいて、それをサポートする役回りの若手研究者との数人で固定の研究チームになる仕組みだ。たとえば大学では、教授、准教授、助教が1チームとして研究室を構成するのが一般的になっている。

この講座制の中では、若手には事実上、拒否権はない。任期制の若手の契約更新は指導的立場の研究者の評価や意見に左右されるうえ、そもそも若手には研究を自分の意思だけで進める権限がないため、立場が非常に弱いからだ。

そして、ひどい場合には、指導的立場の研究者はアイデアをほとんど出さなくなる。なるべく優秀な若手研究者を配下に囲い込み、彼らのアイデアや論文に便乗することで自分の成果を積み上げていく。もちろん、中には講座制がうまく機能しているところもあるだろう。だが、理研を含め、日本のトップレベルの研究機関では、重鎮の研究者が優秀な若手研究者を搾取することが現に起きているのだ。

ついに完全決別を決意

関係者によるとB氏は、A氏がユニットリーダーになり、本来は研究主宰者として自由に研究を進めて論文を出せる立場になった後も、A氏にもB氏の研究ミーティングに参加することを強制したほか、論文を許可なく出させないスタンスを変えなかったという。

理研は、表向きでは「若手の育成に注力する」とうたうが、優秀な若手が泣いているケースも少なくない(記者撮影)

耐えかねたA氏は自らB氏との完全決別を決意。「研究者として尊敬できない」という趣旨のメールを送った。これにB氏は激高し、以降、A氏と口をきくことはなかったという。話はここで終わらない。

A氏は上述通り2025年3月末までの6年半は理研にいられる口約束で、理研のユニットリーダーと国の卓越研究員になった。その一方で、理研からの雇用では毎年、2023年3月末を更新上限とする1年契約の書類にサインさせられる状況が続いていた。

B氏との決別から少し経った2021年2月。A氏は前出のセンター長からいきなり、契約書を基に「2023年3月末で出ていくように」と告げられた。卓越研究員として、2025年3月末まで雇用するという口約束を反故にされ、書類どおりの雇い止めとなったのだ。センター長からは、A氏がB氏と対立したのが原因であることをほのめかしてきたという。

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