理研が逸材を中国に流出させた「アカハラ」の全貌 講座制のもとで若手研究者が直面する不条理

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文部科学省の審査は難なく通り、A氏は2018年10月に理研のユニットリーダーとして卓越研究員になった。ただ、同僚によると、A氏は「研究のアイデアをB氏に吸い上げられる。論文も自由に書かせてもらえない」とこぼし、かねてからB氏の元を離れたがっていたという。

B氏と働いたことのある研究者によると、「B氏は自分の手を通さない論文を勝手に出すことを認めようとはしなかった」。しかも、B氏は論文をすぐにチェックすることはなく、多忙を理由に長い間待たされる。「中でも、B氏があまり好まない研究テーマや、かわいがっていない研究者の論文は後回しにされる」(同前)という。

過去にも意見した若手はいたが…

この状況に不満を持っていたのは、A氏だけではない。A氏が所属した研究センターが理研で発足する際に、ある事件が起きていた。B氏と一緒に働く複数のチームリーダーがB氏に、「JACS(アメリカ化学会誌)以下のジャーナルへの論文は自分たちの判断で自由に出させてほしい。論文を出せなくてみんな泣いている」と連名で訴えたのだ。するとB氏は激怒し、チームリーダーの1人は理研を辞めた。

その結果、研究センターには誰も所属しないチームが形式上存続するという異常な状態が5年間も続いた。このようなことを黙認したのは、B氏と同じく東京大学の卓越教授である、盟友のセンター長だった。

なぜ、B氏はそれほどまでに若手研究者に論文を自由に出させたがらないのか。それは、上に立つ研究者にとっては論文に干渉することに、大きなうまみがあるからだとみられる。

研究は複数人が関わり、論文は共著になる場合が多い。A氏やB氏が専門とする分野では慣習的に、論文の責任者のうち一番末尾に名前が載るラストコレスポンディングオーサーがとくに重視される。B氏は、若手研究者の論文をチェックして手を入れると、「面倒を見た」という大義名分のもと、いつもこのラストコレスポンディングオーサーに収まっていたという。

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