昨年以降、大きく円安が進んでいるが、最近の日本経済の安定成長が続いていることが示すように、これまでの円安は、日本経済全体を押し上げるプラスの効果があったと言えそうだ。
TOPIX(東証株価指数)をS&P500種指数で割った「日米相対株価」は、円安になると上昇するという連動が続いており、通貨安がもたらす企業業績改善が日本経済を成長させる効果が大きいことは明らかだ。さらに、今年は訪日外国人が戻り、インバウンド消費が復活しており、円安の恩恵が地方経済に広がりやすい状況になっている。
5月以降、日本株が、米欧株よりも上昇率で上回り、平成バブル崩壊後最高値となる33年ぶりの大幅高となったことには、さまざまな要因が挙げられる。実際には、金融緩和を続ける日本銀行の政策が、経済成長と企業業績の改善を後押ししたことが、最も大きい要因とみられる。
円安が止まるのは今年の秋口か
それでは最近の円安は、今後の日本銀行の政策に影響するだろうか。確かに、為替レートは、日銀の政策判断の1つの変数にはなる。ただ、日銀執行部は、過去の円高に対応して金融緩和を行った際、経済が不安定化した1980年代の教訓などから、短期的な通貨変動に金融政策が左右されないことが重要だと認識しているだろう。再度進んでいる円安をうけて、日銀が金融政策修正を前倒しする可能性は小さいと考える。
円安に対する対応としては、昨年同様、財政当局による為替介入が想定される。ただ、原油高などと円安が同時に起きていた2022年と異なり、2023年は原油価格が落ち着いている。また、最近の円安はアメリカの金利上昇に沿った動きとみられ、金融政策で説明できる適度な円安と解釈されるのではないか。
筆者は可能性が低いと考えているが、仮に今後1ドル=150円を超えて投機的に円安が進めば、急激な変動を抑制するために、その是非はともかく政治的な対応として為替介入が行われるかもしれない。ただし、為替介入だけではドル円の方向性は変えられず、スピードを和らげる効果しか期待できないだろう。
今後、FRBの利上げ打ち止めか日銀の緩和政策の修正かのいずれかがなければ円安基調は変わらないと予想される。「秋口にかけてFRBの利上げ期待が鎮静化することで円安ドル高が止まる」が筆者のメインシナリオである。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら