富士通で「社内起業家」が成功できた納得理由 「ソーシャルイントラプレナー」の価値とは何か
時田隆仁氏(以下、時田):大企業には大企業にしかない多様性があり、さまざまなつながりを生み出せる。エキマトペ(駅の音をAIによって視覚化する装置)もJR東日本や大日本印刷(DNP)と連携して取り組んでいますが、それは富士通というブランドや、富士通が持っている多様性から導かれた組み合わせだといえるかもしれません。大企業のリソースをうまく活用できることをスタートアップの方々をはじめ、世の中に示していかなきゃいけないと思っているんです。
ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)を目指して個人で頑張るのも、もちろんいいんです。ただ、新規株式公開(IPO)をした後、スタートアップの方々のすばらしい技術が潰れてしまうことも少なくない。そうならないためにも、スタートアップの優れた技術を大企業の力を活用して世に広めていくのは、検討してもいい方法の1つです。まずはスケールをつくらないと、どんなにいい技術も進化させられない。テクノロジーはとくに、使われてなんぼですからね。大企業は、技術を活用する場の提供もできますし、機会に関しても圧倒的に大企業のほうが持っている。だけど、とかく二項対立になってしまいます。
野中:過去の歴史も含めて質量ともに多様な知が顕在的・潜在的に存在している大企業は知の宝庫なんです。それを活かせるかどうかが重要なんですが。
本多:大企業は多様性を生み出す、すごく最適な環境でもあるということですよね。時田社長が取締役会に来いと呼んでくれて、取締役会でオンテナの研究に取り組むことを了承してくれたような経営陣が増えたらいいな、と思っています。そして、私の富士通での経験を次の世代に伝えたいと思っています。それが今回の本の趣旨でもあるんです。
野中:本多さんは本当に社長に会いに行ったのが、やっぱりすごい。それで取締役会に参加したと聞いて、びっくりしたんですよ。知的機動力がありますね。きっと、取締役のメンバーも驚いたでしょう。
本多:驚いていました。
パーパスがあればこそできたこと
野中:富士通はパーパスを新たに策定しましたよね。パーパス経営がはやりですが、大事なのは「なぜ、社会に存在するのか」を明確にすることです。富士通では、その制定に当たってこれまでの歴史も検証して、とことんWhyを追求しました。存在目的を突き詰めるためには、社会や環境を含めたより大きな関係性を視野に入れなければなりません。Whyという存在目的を追求することは、未来に向けた自己革新の契機になるんです。
さらに、パーパスは決めたけど、その具体例、実践例がないと説得力がなく、迫力に欠けますよね。だから、本多さんの取り組みがちょうどよかったのかもしれません。
時田:まさにおっしゃるとおりなんです。企業が目的意識を持つのは、非常に大事なことだと思っています。もしパーパスがなかったら、取締役会でもステークホルダーにも、なぜ、富士通がオンテナに取り組んでいるのか説明できませんからね。ましてや、現状ではもうかっていないとなれば、なおさらのことです。パーパスがあるからこそ、認めてもらえる環境ができたんです。
オンテナのような取り組みは、富士通のパーパスで定義した価値観「挑戦」に当てはまります。大企業には多様性があり、機会もたくさん持っている。とはいえ、やっぱりそこで何かを作り、やり続けるのは難しいことです。つねにステークホルダーの目にさらされていますし、営利企業なので、もうからないものは、ふるいにかけられます。そういう意味では、非常に厳しい環境であることも間違いないです。
逆に言えば、本多が手掛けているようなプロジェクトの芽を潰すことは、すごく簡単なんですよ。続けられるような企業かどうか、もしかしたら、われわれが試されているのかもしれない。
オンテナの継続すら許さないということは、次なる新しいイノベーションや、新しいことが生まれる機会を潰しているともいえる。われわれはそう捉えるべきだと思うんですよね。そうなると、やはり何のために事業を行ったり、挑戦させたりするのか。そうしたことを考えたとき、パーパスがないと前に進めないのです。
とはいえ、パーパスに沿っているからといって何でも挑戦させられるかといえば、それも違う。例えば、もうかるか、もうからないかだけではない、多くの仲間をつくれるといった評価も必要だと思っています。エキマトペの場合、JR東日本やDNP、ろう学校と連携し、少なからず社会に一石を投じている。それがとても大きいのです。
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