富士通で「社内起業家」が成功できた納得理由 「ソーシャルイントラプレナー」の価値とは何か

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時田:本多は、すでに「自分が好きだから取り組んでいる」という領域を超えているはずです。それが彼のすごいところでもあります。オンテナがエキマトペにつながったように、社会に何かしらの影響を与えています。そういったものを生み出せる環境を富士通がつくれていることこそが、良いことだと僕は思っています。

本多:実際にオンテナに共感し、富士通に入社したという新入社員が何人かいると人事から聞きました。富士通に入れば、新しいことにも挑戦できるんだと思ってもらえるのは、すごくうれしい。そういった形でも、より多くの仲間に影響を与えていきたいと思っています。

野中郁次郎氏/一橋大学名誉教授。1935年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業。富士電機製造(現富士電機)を経て、1967年にアメリカカリフォルニア大学バークレー校経営大学院に進学、1972年博士課程修了。1982年に一橋大学産業経営研究所教授。「ナレッジマネジメント」「SECIモデル」「ワイズリーダー」を広めた知識経営の世界的権威。富士通や三井物産の社外取締役を歴任。2017年にはカリフォルニア大学バークレー校最高賞の生涯功労賞を授与された(写真:名児耶洋)

野中:本多さんのすごいのは、すぐ動く機動力ですよね。考えていたって仕方ない。私も「考える」前に「感じろ」と言っていますが、皆で共有できる形式知を豊かにする源泉は、目に見えない暗黙知です。その暗黙知をいかに質量ともに充実できるか。

だから、本多さんはまずは、聴覚障害者と直接向き合った。そこから始まっている。現場・現物・現実の只中での本質を直観する実践知リーダーとしての姿は、富士通のDNAにも通底していますね。

感心したのは、抵抗勢力を回避するために、上層部に直接アプローチしたことです。より善い共通善に向かう物語りの実現に向けて、政治力を行使して何がなんでも実現する、やりきる能力も実践知リーダーの重要要件の1つです。

時田:そうですね。リアリティーですね。

野中:本多さんは、「聴覚障害者と聴者が一緒に音を楽しむ新しい未来」という理想を追求しつつ、現場の只中で何が本質か直観し、それを実現するために組織を動かす政治力も発揮しました。理想主義的プラグマティズムを体現しました。

重要なのは周りを巻き込む力

時田:オンテナは取締役も認め、執行役員たちも全員応援している。それは、彼自身のパッションもさることながら、「ナラティブ(物語り)」があることが大きい。彼は富士通に入る前からオンテナをずっと研究し、学生の頃から勉強していますからね。

彼の人生観にも通じるようなストーリーがあり、1つのナラティブができているんです。これも富士通で事業化できている理由の1つです。

野中:なるほど。

時田:ナラティブは、やはり一番強いんですよ。彼自身が大企業の中で良いリファレンスとなり、現実味のあるモデルケースになっています。本多のように、情熱を持って自分のやりたいことに挑戦したいと思える人間が富士通内で増えてくることが、彼の存在意義ともいえるんです。そして、それが浸透してくることで、本多の必要性がより強くなってくると考えています。

『SDGs時代のソーシャル・イントラプレナーという働き方』(日経BP)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

難しいのは、本多はちょっと飛び抜けすぎているんですよ。後に続く人からすると、少し遠い存在になりつつある。できれば、本多自身も前に進みながら、周りを巻き込んでいけるようになることが理想です。とはいえ、オンテナにあまりにも愛情をかけているので、自分の仕事だけでも精一杯で、両立は難しいかもしれません。

ただ、少なくとも、いろいろなリソースは得ているはず。富士通というブランドが本多を後押しし、さまざまな人とつながっていますよね。イントラプレナーという自覚があるならば、もう少し、富士通内で自分の経験を基に「挑戦する意義や必要性」を伝えなければいけないと思います。そういった活動によって、企業にとってのソーシャル・イントラプレナーの必要性がより明確になると思いますね。

本多 達也 富士通 Ontennaプロジェクト リーダー

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ほんだ たつや / Tatsuya Honda

1990年香川県生まれ。博士(芸術工学)。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置を研究。2014年度未踏スーパークリエータ。2016年度グッドデザイン賞特別賞。Forbes 30 Under 30 Asia 2017。Design IntelligenceAward 2017 Excellence賞。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2019 特別賞。2019年度キッズデザイン賞特別賞。2019年度グッドデザイン金賞。MIT Innovators Under 35 Japan2020。令和4年度全国発明表彰「恩賜発明賞」。Salzburg Global Seminar Fellow。2022年よりデンマーク・デザイン・センターにてゲストリサーチャー。

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