富士通で「社内起業家」が成功できた納得理由 「ソーシャルイントラプレナー」の価値とは何か
時田:本多は、すでに「自分が好きだから取り組んでいる」という領域を超えているはずです。それが彼のすごいところでもあります。オンテナがエキマトペにつながったように、社会に何かしらの影響を与えています。そういったものを生み出せる環境を富士通がつくれていることこそが、良いことだと僕は思っています。
本多:実際にオンテナに共感し、富士通に入社したという新入社員が何人かいると人事から聞きました。富士通に入れば、新しいことにも挑戦できるんだと思ってもらえるのは、すごくうれしい。そういった形でも、より多くの仲間に影響を与えていきたいと思っています。
野中:本多さんのすごいのは、すぐ動く機動力ですよね。考えていたって仕方ない。私も「考える」前に「感じろ」と言っていますが、皆で共有できる形式知を豊かにする源泉は、目に見えない暗黙知です。その暗黙知をいかに質量ともに充実できるか。
だから、本多さんはまずは、聴覚障害者と直接向き合った。そこから始まっている。現場・現物・現実の只中での本質を直観する実践知リーダーとしての姿は、富士通のDNAにも通底していますね。
感心したのは、抵抗勢力を回避するために、上層部に直接アプローチしたことです。より善い共通善に向かう物語りの実現に向けて、政治力を行使して何がなんでも実現する、やりきる能力も実践知リーダーの重要要件の1つです。
時田:そうですね。リアリティーですね。
野中:本多さんは、「聴覚障害者と聴者が一緒に音を楽しむ新しい未来」という理想を追求しつつ、現場の只中で何が本質か直観し、それを実現するために組織を動かす政治力も発揮しました。理想主義的プラグマティズムを体現しました。
重要なのは周りを巻き込む力
時田:オンテナは取締役も認め、執行役員たちも全員応援している。それは、彼自身のパッションもさることながら、「ナラティブ(物語り)」があることが大きい。彼は富士通に入る前からオンテナをずっと研究し、学生の頃から勉強していますからね。
彼の人生観にも通じるようなストーリーがあり、1つのナラティブができているんです。これも富士通で事業化できている理由の1つです。
野中:なるほど。
時田:ナラティブは、やはり一番強いんですよ。彼自身が大企業の中で良いリファレンスとなり、現実味のあるモデルケースになっています。本多のように、情熱を持って自分のやりたいことに挑戦したいと思える人間が富士通内で増えてくることが、彼の存在意義ともいえるんです。そして、それが浸透してくることで、本多の必要性がより強くなってくると考えています。
難しいのは、本多はちょっと飛び抜けすぎているんですよ。後に続く人からすると、少し遠い存在になりつつある。できれば、本多自身も前に進みながら、周りを巻き込んでいけるようになることが理想です。とはいえ、オンテナにあまりにも愛情をかけているので、自分の仕事だけでも精一杯で、両立は難しいかもしれません。
ただ、少なくとも、いろいろなリソースは得ているはず。富士通というブランドが本多を後押しし、さまざまな人とつながっていますよね。イントラプレナーという自覚があるならば、もう少し、富士通内で自分の経験を基に「挑戦する意義や必要性」を伝えなければいけないと思います。そういった活動によって、企業にとってのソーシャル・イントラプレナーの必要性がより明確になると思いますね。
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