「文芸のプロ」が"第169回芥川賞"を独自採点・予想 「現代文学を新しく切り拓く」作品誕生となるか

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次の候補作は、児玉雨子「##NAME##」(『文藝』夏季号)である。

児玉雨子「##NAME##」(『文藝』夏季号)

1993年生まれ。アイドル歌手への作品提供で知られる作詞家でもある。単行本化された作品に『誰にも奪われたくない/凸撃』(2021年)がある。

今回が初のノミネート作品

「雪那(せつな)」と「美砂乃(みさの)」、2人の少女のユニークな成長譚。2人は同じアイドル事務所に所属する仲良しカップル。

ヒロインの雪那は、ステージ・ママ志願の母親に背中を押されながら、気乗りのしない少女二軍タレント活動を続けつつ、辞めたバスケ部の女子らから陰湿ないじめ(「死ね」「変態」と書かれたメールを送り続けられる)を受けている。

片や美砂乃は、順調にアイドル路線を突っ走る。

「せつなはゆきなっぽいから」「ゆきって呼ぶね」と美砂乃(「みさって呼んでね」)に言われるが、タレント活動にどこか集中できない雪那は、「ゆき/みさ」の愛称にもなじめず、ある日、「学校のこと考えたり、心配する暇がないの」という売れっ子の美砂乃に、「本気じゃないなら話が合わないから」「辞めて、全部」と突き放される。

事務所を辞め大学に進学、BL研究会に入り二次創作に打ち込む雪那は、ジュニア・アイドル時代の写真が、児童ポルノであったことを知る。しかもそれは研究会のメンバーも知っていたことで、ネット上で拡散、家庭教師の口さえ失った彼女は、就活を控え親にも相談せずに「改名」を思いつき実行する。

そして、「私はすべてを捨てて生まれ変わったわけでも生まれ直したわけでもなく、既に私でいたことに気づく」のだ。

ここでようやく彼女は、「ゆき/みさ」という、かつてなじめなかった「私たちだけの言語」を受け入れる。

傷つきやすい少女のNAMEの揺れ(本名・石田雪那、芸名・石田せつな、改名後・石田ゆき)をめぐる知的な小説と言うべきで、山田詠美、川上弘美、小川洋子の3人の女性選考委員がどう評価するかがポイントになりそうだ。

『文藝』からの受賞作となれば、2020年の宇佐美りん「推し、燃ゆ」以来となる。

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