「文芸のプロ」が"第169回芥川賞"を独自採点・予想 「現代文学を新しく切り拓く」作品誕生となるか
最後の候補作は、乗代雄介「それは誠」(『文學界』6月号)である。
乗代雄介「それは誠」(『文學界』6月号)
1986年生まれ。2015年「十七八より」で群像新人文学賞。2018年『本物の読書家』で野間文芸新人賞。
本作が、候補者中最多の4回目のノミネート。
作中「牛の涎」(これは自然主義文学をからかった二葉亭四迷の『平凡』の冒頭にある言葉)と自己言及する饒舌体で、最後まで読ませる。
東京での修学旅行の自由行動日に、生き別れ状態の「おじさん」に会いに行く、祖父母と暮らす「ぼっち」高校生と、彼の行動に付きそう男子、この予定表にない行動を隠蔽するために口裏を合わせる女子たちとの友愛を描く。
彼が「ぼっち」でなくなる後半の盛り上がりは感動的だが、そのきっかけに宮沢賢治をもってきたのは、いかにもあざとい(「日野」-「新撰組」-「誠」の関連づけはさらにイージー)。
キャラクターの書き分け(とくに主役と脇役のメリハリ)は見事だが、女子・小川楓が、「ぼっち」佐田誠のどこに惹かれたのかについての、物語的伏線があってもよかった。そうなると当然、誠に拮抗する楓の「家族物語」を語り起こさねばならないが……。
ただ、会えなそうで会えた「おじさん」との再会を、ぎりぎりまで引き延ばす作家のテクニックはただものではない。しかも直接それを、「誠」と「おじさん」の感動的再会シーンではなく、付き添い男子の言葉で再現する心憎さ。
この作家は、間違いなくうまいことはうまい(スマホの使い方まで)のだが……。消去法で有力3作には残りそう。
さて『パパイヤ・ママイヤ』に続く作者渾身の青春小説、四度目の正直となるかどうか。
松浦寿輝、島田雅彦、奥泉光、山田詠美、川上弘美、小川洋子、吉田修一、平野啓一郎、堀江敏幸の9人の選考委員による「第169回芥川賞」の発表は、7月19日夜に行われる。
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