ハンコに長い会議、なぜこうあっさり復活したのか 「コロナ時代の暫定措置でしょ?」の一言に唖然

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通勤にかかる時間は、だいたい1時間45分。ラッシュを避けるため、家を6時には出る。そのせいで、朝は慌ただしくなった。

夜も忙しなくなった。夜9時過ぎに帰宅してから、子どもの弁当の準備をするからだ。家族と会話する時間はめっきり減り、週末は「昼まで寝ていたい」と思えるほど疲れが抜けなくなっていた。

「会社員なんて、こんなもんだ」

わかってはいた。だが、Kさんは「ウィズコロナ時代」の2年あまり、快適な生活を過ごしすぎていた。

国土交通政策研究所の報告書によると、通勤電車に乗る時間が長いと慢性的な疲労が見られるという。体力の消耗のみならず、混雑した環境は強い心理ストレスを生むこともわかっている。

個人差もあるだろうが、在宅勤務をしてもKさんの生産性が下がらなかったのは、通勤電車による疲労がゼロになったことも大きいはずだ。

あっさりハンコ復活!「電子署名は暫定措置」

テレワーク時代、Kさんは業務処理のほとんどをデジタル化していた。電子署名、メールやチャットでの承認、そしてクラウドでのデータ共有。しかしオフィスに戻ると、古風なビジネス慣習である「ハンコ」も復活した。

「引き続き、電子署名でいいですよね?」

Kさんは総務に尋ねるものの、曖昧な返答しか戻ってこない。部長にも進言したが、

「電子署名なんて、コロナ時代の暫定措置だろ」と一蹴された。

在宅で働いていた頃は電子化されていた手続きが、オフィスに戻ってから再び紙とハンコに戻ってしまった。Kさんは、デジタル時代を逆行しているように感じたと言う。

以前はチャットで簡単に確認していた業務も、ハンコが必要となると書類を印刷し、関連部署へ持って行ってハンコを押してもらう。そのたびに、仕事の流れが中断された。

「なんでハンコが必要なんだよ!」
「私に言われても困ります」

Kさんが書類を持ってまわるたび、このような愚痴を聞かされた。

■出社してから急増する「長時間会議」の実態

長時間会議で悩まされているのは、商社の総務課長のNさん(40代)だ。

在宅勤務時代、NさんはZoomを通じて会議を行っていた。時間制限があり、長引くことがなかった。しかし、原則出社になってからは、長いリアル会議で毎日が埋め尽くされるようになった。

Zoomの会議では、必要な点を端的に伝え、効率よく話すことが求められた。そのおかげで事前準備をしっかりやるクセがついた。しかしリアルの会議では、予定時間が過ぎてもなかなか終わらない。

会議の準備をおろそかにし、

「前回の会議では、どんな議論をしたんだっけ?」

と、行き当たりばったりで会議を進行する人が増えた。

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