JSRが仕掛ける「半導体材料の再編」を大胆予測! 政府系ファンドによる株式非公開化で大勝負

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このことはJSRにとってかなり都合が悪い。「保守的な社風の会社」(取引先関係者)という評判とは裏腹に、ジョンソン社長は事業の「選択と集中」に邁進。1957年に国策会社の「日本合成ゴム」として設立されて以来手がけてきた、合成ゴム(エラストマー)事業も売却した。

レゾナックの持つ石油化学事業を取り込んでしまえば、祖業を手放してまで進めてきた「選択と集中」戦略が逆戻りしてしまう。

再編は同業との「水平統合」とは異なる「垂直統合」のパターンもありえる。フォトレジストの原料メーカーを取り込み、川上のメーカーと一緒になることで、製造の効率化・コストダウンを狙える。

「ターゲットになりえるのは、大阪有機化学工業や東洋合成工業。ほかにも、ダイトーケミックスや日本カーバイド工業も対象になるだろう」。半導体材料業界に詳しい、いちよし経済研究所の大澤充周・主任研究員はそのようにみる。

JSRの再編相手を予想

各社ともフォトレジストの材料を手がけており、売上高は160億〜440億円と、4000億円を超えるJSRより小規模。JSRの非公開化が公表されてから、これらの企業の株価が上がっていることを踏まえると、株式市場は早くも再編ターゲットになることを見越しているとも言えそうだ。

これまでの「国有化」とは違う

今回発表されたJSR株のTOB価格は1株あたり4350円。TOB発表前のJSR株の終値に35%のプレミアムが上乗せされることになる。非公開化にかかる総額はおよそ9000億円。TOBを実際に行うのは、JICが出資しみずほ銀行が融資する新会社だ。

これまで政府系ファンドによる買収は、経営不振企業の「救済」という色合いが濃かった。政府系金融機関による支援もしかり。しかも政府絡みの業界再編はうまくいかない。エレクトロニクス業界では、エルピーダメモリやJOLEDなどが経営破綻し、ジャパンディスプレイは苦戦が続く。

同じ轍を踏むことにならないのか。この疑問にジョンソン社長は、「経営危機に直面し救済を求めて打ち出した施策ではない。さらなる機会を求めてのことだ」と、これまでとの違いを強調する。

確かにJSRの自己資本比率は50%で財務基盤は強固。足元の業績も堅調で、半導体材料は中長期的な拡大が見込まれる成長市場だ。日本の材料メーカーの競争力は圧倒的で、国別の世界シェアは48%。2位の台湾16%を突き放している今こそ、仕掛けるタイミングだといえる。

自ら「国策会社」という元の鞘に収まった格好になったJSR。政府系という錦の御旗を掲げた再編に賛同者は現れるのか。いずれにせよ半導体業界の台風の目にJSRがなることは間違いない。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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