中国向け半導体輸出規制が日本に「無風」のナゼ 結果オーライ?直面した中国のしたたかさ

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コロナ禍でPCやスマートフォン需要、データセンター投資が拡大。半導体需要は世界的に急膨張したが、足元は半導体メモリーを中心に不況に沈む(提供:TSMC)

「半導体市場は月を追うごとにマイナス幅が拡大している。半導体メーカーの中には『リーマンショック以来の落ち込みになる』という声もある」

半導体材料のシリコンウエハーで世界トップの信越化学工業の轟正彦専務は5月、2023年3月期の決算会見で半導体市況について語った。同社が手がけるウエハーの出荷は、2023年1〜3月期に前四半期比で1割の落ち込みとなった。

コロナ禍からの2年間、空前の活況に沸いた半導体関連業界。テレワークなどでPC・スマートフォン需要やデータセンター投資が拡大し、こうした製品に欠かせない半導体の需要は世界的に急膨張した。世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2021年の市場は前年比26%増を記録。2022年も同4%増と成長が続いた。

だが、足元ではその反動に苦しめられている。昨秋頃は2023年後半に市況は回復に向かうという見方もあったが、半導体メモリを中心に需要の低迷は当初想定よりも長引いている。調整期間は2023年後半から2024年まで続くとみられる。

装置メーカーの意外な見通し

半導体需要の低迷が続く中、経済産業省は5月23日に最先端半導体の製造に使われる装置などを輸出管理の対象に加える省令改正を公布した。

対象となるのは製造工程で使われる洗浄装置や露光装置など23品目。特定の国を対象にしたものではないが、輸出には政府の許可が必要になる。実質的に中国への輸出は難しくなる。2022年10月には、アメリカが最先端半導体の製造に使われる装置や技術の対中輸出規制を導入していた。この方針に日本も事実上、足並みをそろえた格好だ。

焦点になるのは日本の半導体関連企業への影響だ。日本企業は半導体を製造する際の装置や材料に強みを持つ企業が多く、中国向けの売り上げも無視できない規模になっているところが少なくない。

たとえば製造装置メーカー大手の東京エレクトロン。半導体前工程の装置が主力で、製造装置で世界3位の売上高だ。同社の中国向け比率は23%(2022年度)に上る。またSCREENホールディングスは、半導体ウエハーの洗浄装置で世界シェア1位だが、同部門売上高のうち約20%を中国向けの売り上げが占めている。

半導体市場が冷え込んでいる中での輸出規制は、まさにダブルパンチ。しかし両社の今期計画を紐解いてみると、意外な見通しが明らかになった。「中国向け売り上げはむしろ伸びる」というのだ。

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