「らくらくホン」のスマホメーカー突如破綻の深層 急激な円安が打撃、残る日本勢は2社のみに
シニア向けの「らくらくホン」などを手がけるスマートフォンメーカー、FCNTが5月30日、民事再生法の適用を申請した。帝国データバンクによると、適用を申請したのはFCNTの親会社を含めたグループ計3社で、負債総額は約1200億円に上るという。
富士通のモバイルフォン事業本部から2018年に分離独立した同社は、らくらくホンのほか、高付加価値製品ブランド「arrows」でも知られる。直近まで通常の営業を行なっており、業界関係者の間でも、突然の発表に驚きを隠せない人が多かった。
2022年3月から始まった急激な円安とその定着、スマートフォン市場の成熟化といった背景もあり、収支改善の道筋をつけることができなかったものとみられる。
業界全体を俯瞰すると、昨今はシステムチップやCMOSセンサーなど半導体を中心とした部品不足が叫ばれ、競争力を高めるキーコンポーネントは早期に確保しておく必要もあった。そうした中で規模が小さなメーカーは為替変動などの影響を受けやすい状況だったことも、今回のタイミングでの破綻につながった可能性がある。
売上原価は8割超に達していた
FCNTの決算資料などを読み解くと、この1~2年の間に財務状況の悪化が急速に進んでいた様子がうかがえる。
前述したように小規模メーカーの部品調達環境はいいものではなく、円安進行以前から押さえていたドル建て調達の部品、コンポーネントが高騰したことが、FCNTにも打撃となったようだ。
1000億円超という負債の規模も、部品メーカーをはじめとする取引先への支払い猶予を求めることで急速に膨らんだから、と考えれば腑に落ちる。
FCNTの2023年3月期決算は未発表のため比較はできないが、2022年3月期時点で、同社の売上原価はおよそ80.4%(売上高約843億円に対し、売上原価は約679億円)に達していた。
この原価の中には当然、国内での費用も含まれるが、ドル建て調達の部品コストが大半を占めることは想像にかたくない。さらに円安が進行した2023年3月期の決算では、原価率が9割前後に達していた可能性もあるだろう。
昨今の環境はもはや急激な円安が日常と化しており、FCNTが2023年3月期決算をまとめる中で自主再建を断念したのは不思議なことではない。
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