風呂や土いじりで感染、急増する「肺NTM症」の正体 注意したい人や症状、治療などを専門家が解説
当然ながら、肺に何らかの病気がある人も感染リスクが高い。肺結核後遺症や気管支拡張症、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など基礎疾患を持っている人たちだ。また、抗がん剤やステロイド薬、関節リウマチに対する生物学的製剤などの使用によって、免疫が低下している人も、この病気にかかりやすいことがわかっている。
初期は無症状であることが多い非結核性抗酸菌症。「近年は健康診断のレントゲン検査や、ほかの病気の検査がきっかけとなって、偶然に見つかることが多い」と森本医師は言う。
病気が疑われたら、CT検査、痰の検査、肺や気管支を内視鏡でチェックする気管支鏡検査、採血による抗体検査などで確定診断となる。
「放射線画像検査(レントゲン検査やCT検査など)をすると、壊れて拡張した気管支の周囲に粒状の影が点在したり、肺の一部が壊れて空洞ができていたりするなど、特徴的な所見があります」(森本医師)
肺非結核性抗酸菌症はゆっくり進行することが多いので、検査で見つかっても軽症の場合は治療をせず、定期的に検査を受けながら経過をみることもある。一方、肺に空洞ができている、血痰や喀痰などの症状がある、といった場合は治療が必要となる。
菌によって異なる治療法
治療は原因となる菌によって異なる。冒頭でも紹介したが、肺非結核性抗酸菌症にはいくつかの種類がある。日本ではMAC菌が最も多く、残り1割弱はカンサシ菌やアブセッサス菌だ。
MAC菌による肺MAC症は、基本的にマクロライド系の抗菌薬のクラリスロマイシンかアジスロマイシンに、抗結核薬のリファンピシンとエタンブトール2種類を加えた、計3種類の薬を服用する。この治療であまり改善されない人や、症状が重い人は注射薬(アミノグリコシド系抗菌薬のアミカシンやストレプトマイシン)を追加する。
こうした薬物治療で効果が見られない場合は、手術で肺の悪い部分を切除することもある。ただその場合も、術後には先に挙げた薬を長期間服用する必要がある。
「カンサシ菌ではリファンピシンやマクロライド系の抗菌薬などの飲み薬でほとんどが治癒可能です。一方、アブセッサス菌がもっとも複雑で、アジスロマイシン、抗らい薬のクロファジミンなどに、アミカシンやカルバペネム系抗菌薬のイミペネムなどの点滴を組み合わせた治療になります」(森本医師)
この感染症の問題は、治癒にいたるのが非常に難しいという点だ。
森本医師は「薬剤が効きにくいので薬の量が多くなります。また、検査で菌が消失していることが確認されてからも、最低で12カ月以上の継続治療が必要」と話す。同院のデータでは、治療にかかる期間は平均で18~19カ月だという。
飲み続けるだけでも大変なのだが、薬が効きにくくなる薬剤耐性ができたり、副作用が出たりして続けられず、同院に紹介される患者も少なくないという。国のレセプトデータを解析した研究では、6カ月以上継続できる人は60%程度しかおらず、12カ月になると40%にまで下がるそうだ。
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