風呂や土いじりで感染、急増する「肺NTM症」の正体 注意したい人や症状、治療などを専門家が解説

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このため、薬の飲み方を工夫するなどして、できる限り耐性の問題や副作用を少なくし、長く継続できるように、患者ごとに調節して治療を行っているという。

「しかも、一度治っても再感染しやすいのが、この感染症のもう1つの問題です。複数の報告によると、再感染率は4~5年で40%に上ります。1日も早く、有効性が高く、副作用が少ない薬の登場が望まれます」と森本医師。現在、研究・開発は進んでいるものの、実際に使えるまではいくつものハードルがあり、「最短で出てくるとしても、3~4年は先になるだろう」と考察する。

肺非結核性抗酸菌症の予防法

ここまで見てきたように、非常にやっかいな感染症といえる肺非結核性抗酸菌症。できればかからないことにこしたことはない。

では、どうすれば予防できるのだろうか。

菌が生息しているのは、風呂場や庭の土など。入浴時や風呂掃除のときに発生するエアロゾルや、ガーデニングのときに出る土ぼこりを吸い込むことで感染するといわれている。このため、次のような予防法がある。

しかし、どれぐらいの時間、菌にさらされると感染するのかといったことは、まだはっきりとはわからない。菌が生息する場所を掃除するのは除菌につながるが、風呂場の配管や、銭湯や温泉、スポーツジムといった浴用施設などの場合、個人の力では限界がある。

「そうかといって、患者さんに『プールや温泉に行ってはいけません』『土をいじってはいけません』と言えば、それはそれでストレスになりますよね。ですので、私の場合は、日本でこれまで示されている客観的なデータをお伝えしつつ、患者さんの生活パターンを伺ったうえで、重症度や再感染のしやすさに応じて、どのようにするか提案するようにしています」と森本医師は言う。

森本医師が望んでいるのは、非結核性抗酸菌を簡単に調べる方法や除菌法の確立だ。

森本耕三医師(写真:本人提供)

「公衆浴場や温泉施設では厚労省や自治体がレジオネラ菌などを調べる水質検査のルールを作っています。そのような形でこの菌も調べられればいいのですが……」

複十字病院には現在1500人以上の患者が通院していて、さらに毎年300~400人ずつ新たに診断されているという。「この病気を専門的に診るのは呼吸器内科医ですが、日本では呼吸器内科医の数が少ない。もっと増えてほしい」。これも森本医師の切実な願いだ。

複十字病院呼吸器センター医長
森本耕三医師

1974年、長野県出身。2000年信州大学医学部卒。国立病院機構茨城東病院、日本赤十字社医療センターなどを経て2008年から複十字病院で勤務。現在、結核研究所抗酸菌部主任研究員、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学系専攻臨床抗酸菌症学分野教授も務める。
井上 志津 ライター

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いのうえ しづ / Shizu Inoue

東京都生まれ。国際基督教大卒。1992年から2020年まで毎日新聞記者。現在、夕刊フジ、週刊エコノミストなどに執筆。福祉送迎バスの添乗員も務める。WOWOWシナリオ大賞優秀賞受賞。著書に『仕事もしたい 赤ちゃんもほしい 新聞記者の出産と育児の日記』(草思社)。

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