「千と千尋の神隠し」カオナシが突然大抜擢のワケ 最初は単なる脇役だったキャラクターがなぜ?
一方、1998年3月26日には、『もののけ姫』制作中の1996年5月以来の企画検討会を開催。企画提案者とレポーターとして宮﨑自身が立ち、以前取り上げられたことのある柏葉幸子の児童文学『霧のむこうのふしぎな町』を再度提出した。この検討会は、いろいろな小説やマンガなどを題材に「どうやったら映画になるか」をスタッフで話し合うことを目的とした会合で、スタジオジブリのウェブサイトで連載されている制作日誌では、当日の様子を次のように記している。
前回この企画を取り上げたのが3年10カ月前のため、どんな結論を出したのか、そもそも企画提案者が誰だったかすら覚えていない。こんな状態なので、参加者は初めてこの企画に向かう気持ちで意見を出し合う。宮﨑監督もみんなと話すのが久しぶりなので異様に元気である。そのため検討会は予定時間を超え、2時間半以上にも及ぶ。
同書は1975年に発表された和製ファンタジー。小学6年生の少女リナが、父の知り合いを探して「霧の谷」を訪ねると、そこには不思議なお店が集まった商店街があった……という内容である。
「踊る大捜査線」がきっかけになった
宮﨑自身は同書のどこが魅力かあまりピンとこなかったというが、同書を好きで子供の頃何度も繰り返し読んだというスタッフの声を手がかりにして、検討会後から同書の映画化が可能かどうかを検討し始める。
宮﨑は『ゴチャガチャ通りのリナ』というタイトルで、同書の魅力を探りつつさまざまなイメージボードを描いた。しかし、最終的にはこの作品は映画化できないという判断が下された。
その後、宮﨑は改めて、大震災後の東京を舞台に、お風呂屋さんの煙突に絵を描く20歳の女の子を主人公にしたオリジナル企画『煙突描きのリン』の企画をスタート。リンの行く手を阻む中年の男率いる集団とのぶつかり合いを描く予定だった。
しかし、1999年1月、約1年間、宮﨑が温めてきた『煙突描きのリン』に対して、鈴木敏夫プロデューサーから意見が出された。
きっかけとなったのはヒット映画『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年、本広克行監督)。これを見て、そこに現代の若者の特性が等身大で描かれていたことに感心していた鈴木は、宮﨑に「我々が作るべきはやはり、子供のための映画ではないか」と提案した。若者のための映画は等身大の若者を描ける人に任せるべきだろう、自分たちが作るべき作品はそれとは違うものなのでは、というのが鈴木の意図だった。