「千と千尋の神隠し」カオナシが突然大抜擢のワケ 最初は単なる脇役だったキャラクターがなぜ?

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鈴木がこれほどまでにカオナシにこだわったのには、もちろん理由がある。

僕が見たところ、どうもカオナシというのは、人間の心の底にある闇、心理学でいうところの“無意識”を象徴している。そいつがあらゆる欲望を飲み込みながら暴走する。千尋はそれを鎮め、海の上を走る列車に乗って銭婆に会いに行く。そして、戦うことなく名前を取り戻します。不思議なお話ですよね。物語の類型からはかけ離れています。でも、僕はこれこそが現代の映画だと思った。
一見、最初のストーリーのほうが分かりやすいし、そのほうがヒットすると考える人もいるかもしれません。それはそれで、宮さんが作ればおもしろい映画にはなるでしょう。でも、大ヒットする映画にはならない。なぜなら、そこには〝現代との格闘〟がないからです。(『ジブリの仲間たち』)

鈴木はこうした考えのもと、カオナシをメインに据えた宣伝方針を打ち出し、予告だけでなく、新聞広告にもカオナシは大きく取り扱われることになった。当初は、不思議な街並みの前に千尋とブタがいるメインポスターの絵柄を公開まで使用する予定だったが、急遽、カオナシと千尋が向かい合っている場面の絵柄を使うことになった。たとえば公開1週間前の7月13日に『読売新聞』に掲載されたカラーの全面広告の絵柄にもこれが使われている(この広告は、読売新聞広告賞優秀賞に選ばれた)。

人気キャラ「ハク」が登場したのは…

東宝映画調整部の市川南は、この新聞広告について次のように振り返っている。

この映画をヒットさせるカギは、「生きること」に関するテーマだというコンセプトに行き着いて、それを象徴するビジュアルがこの千尋とカオナシの絵柄だったからですね。普通の考え方でいくと、全ページ広告で使う絵柄ではないと思います。もっとロングで、全体がわかるような絵の方が収まりがいいですから。現に社内では「これでいいのかな」という意見もあったんです。でも、あえてこの絵を使ったことで、よりインパクトが強まりましたね。(『ナウシカの「新聞広告」って見たことありますか。』)

一方でヒーローであるハクと千尋との絡みは「恋愛映画ではないから」という方針で、予告や広告には登場しなかった。ハクが広告に登場するのは公開後5カ月経った12月になる。

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