「千と千尋の神隠し」カオナシが突然大抜擢のワケ 最初は単なる脇役だったキャラクターがなぜ?

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宮﨑はカオナシを中盤以降の重要キャラとし、優しくしてくれた千尋を慕い湯屋に入り込み、やがては欲望のままに暴走する役割を担わせた。こうして映画の内容は、千尋と湯婆婆の関係だけでなく、千尋とカオナシの関係も大きな要素としてクローズアップされることになった。

この宮﨑の提案による大方針転換は、その打ち合わせの最中に決まったという。

「(編注/宮﨑が)『これなら2時間で収まる』と新しい構想を語ってくれたんです。それで、中盤からカオナシの話になったんですが、そこは宮さんという人のすごさで、カオナシの話も入れるし、湯婆婆の話も入れるし、銭婆の話も入れるし、結局全部入れてしまった」(『「千と千尋の神隠し」千尋の大冒険』)というのは、完成したストーリーについての鈴木の感想である。

「カオナシ」にこだわった理由

宮﨑のこうした方針転換の一方で、鈴木も、このカオナシというキャラクターに興味を持ち、本予告ではカオナシを大きく取り扱うことに決めていた。

カオナシの存在が膨らんできた時は面白いなと思ったんです。宮さんの中から、またひとつのオリジナリティが出てきたし、最終的に映画の大きな柱になった。フィルムを全部通して見た時、宮さんが言ったんです。「これはカオナシの映画だ」って。僕はそんなこととうに気づいていたので、「当たり前じゃないですか」と。(『ロマンアルバム 千と千尋の神隠し』)

最初に制作された特報は、千尋が不思議の町に入っていき、湯婆婆と出会うまでを中心にまとめられた内容。得体の知れない世界に足を踏み入れてしまった怖さをまず印象づけるテイストだった。それに対し、本予告はカオナシと千尋の絡みを中心に編集された。

あの本予告は、作ろうと思ってからフィルムにするまでに、かなりの時間をかけました。何故かと言うと「カオナシと千尋で予告篇を作る」と言ったら、宣伝の人たちがみんな大反対するに決まっている。(略)とにかく時間をかけました。最初にカオナシと千尋のシーンだけつないだものを作って、とりあえず宣伝関係者に見せて、反応を見てみたんです。僕としては、一ヵ月ぐらい毎日見せてりゃ慣れるだろうと思ったんです。(略)一ヵ月後、最終的に「これを予告にしたい」と言った時、やっぱりみんな反対でした。でも、僕としてはどうしてもやり抜きたかった。(『「千と千尋の神隠し」千尋の大冒険』)
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