開始まであと90日「インボイス制度」のインパクト 424万の免税事業者だけでなく大半の企業が影響

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インボイスが始まると、支払う相手が登録されたインボイス発行事業者(適格事業者)でなければ、いくら課税仕入れでも仕入税額控除ができなくなってしまう。

しかも適格事業者の登録ができるのは、消費税を納めている課税事業者のみ。つまり免税事業者は適格事業者になれず、インボイスを発行できないため、免税事業者からの仕入れについては仕入税額控除が認められなくなってしまうというわけだ。

これを商品やサービスを受け取る買い手サイドから見ると、インボイスが導入されると、免税事業者と同じ金額で取引すれば、仕入税額控除ができない分、買い手のコストアップになってしまう。

買い手にしてみれば、そうした免税事業者とわざわざ付き合うメリットは乏しい。となれば負担が増えた分の値下げを求めるか、さもなければ取引先の変更を考えたとしても仕方がない。

個人も企業も対応を決めかねている

こうした事態に、企業側も決断を迫られる。ある大手生命保険会社では、営業職員約3万人のうち半数以上が免税事業者。会社は負担増の十数億円を国に支払うことに。「一人ひとりと交渉する手間を考え、負担増の分を会社がかぶることにした」(担当者)という。

しかしこれは大企業だからできること。中小企業の場合は増えた負担が経営に大きな影響を与えかねず、免税事業者との付き合い方を見直すとの判断に傾いてもおかしくはない。

そうした事態はインボイス導入前からあちらこちらで起きているとみられ、冒頭で紹介したように免税事業者が「一揆」まで起こして導入に反対しているのだ。

現状では、インボイス制度への理解が進んでいるとはいえない。

下図は、オンラインの人材マッチングプラットフォームの開発・運営を手がけ、個人事業主が多く登録するクラウドワークスが取ったアンケートの結果だ。

これを見て明らかなとおり、ワーカー側も発注者側も、対応を決めているのはほんのわずかで、制度が始まってから判断するとの回答が大半だ。国税庁が広報活動をしているにもかかわらずだ。

国税庁の試算によれば、個人事業主の約75%を占め、法人を含めると約424万人に上る免税事業者のうち、370万人超が課税事業者となりインボイスが適用される。

ほとんどの企業は個人事業主と何らかの取引をしており対応を急ぐ必要がある。副業をしている会社員も、どうするか決めないといけない。

さらには電気料金が上がるとの観測まである。一般家庭から電気を買い取る電気の買い取り制度において、電力会社は消費税相当額込みで一般家庭から電気を買い取っている。だが、一般家庭は事業として発電(売電)をしているわけではなくインボイスは発行できないため、電力会社がその分を負担しなければならないからだ。

この消費税相当分を誰が負担するか決まっているわけではないが、経済産業省は電気料金の値上げで補填してもよいとの見解を示している。こうなると国民全体に影響が及ぶことになる。

インボイス制度のスタートまであと90日ほど。残された時間は少ない。しっかりと理論武装して賢く対応しよう。

田島 靖久 東洋経済 記者

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たじま やすひさ / Yasuhisa Tajima

週刊東洋経済副編集長。大学卒業後、放送局に入社。記者として事件取材を担当後、出版社に入社。経済誌で流通、商社、銀行、不動産などを担当する傍ら特集制作に携わる。2020年11月に東洋経済新報社に入社、週刊東洋経済副編集長、報道部長を経て23年4月から現職。

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