師匠・杉本昌隆が綴る「藤井聡太と過ごした時間」 "天才"を弟子に持つ「師匠の苦悩」と独特の関係

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杉本昌隆と藤井聡太
2018年、王将戦1次予選で公式戦の初対局となった師弟。このときは藤井聡太六段(当時)が師匠の杉本昌隆七段(当時)を破り、「恩返し」となった(写真:時事通信社)
今もっとも注目されている「師匠」といえば、棋士の杉本昌隆八段(54歳)。弟子は、先日、史上最年少名人獲得&七冠を達成した藤井聡太七冠(20歳)です。“史上最強棋士”と称される、日本一有名な弟子を持つ師匠の心中やいかに……。
その独特の師弟関係と知られざる棋士の日常を、杉本八段がユーモラスな文章でつづった『週刊文春』での人気連載をまとめたエッセイ集『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』より一部抜粋・編集のうえ、ご紹介します。
※文中の日付や季節、段位や称号は、執筆当時のものになります。

4月である。気持ちがリフレッシュされ、春の暖かさも相まって何となくウキウキする季節でもある。

新年度もスタート。新社会人、人事異動、新しい上司と部下。出会いは楽しみもあり、少々不安でもある。

私は最近「杉本師匠」と呼ばれる。なぜ師匠なのか? 今更だが、それはあまりにも有名な弟子、藤井聡太二冠の存在ゆえである。

将棋界の師匠と弟子の関係は、会社で喩えるなら上司と部下。だがその出会い方は様々である。

将棋界では原則、プロを目指す少年少女は棋士の養成機関「奨励会」に入会する。このとき師匠が必要になり、身近な棋士にお願いすることになる。その棋士が受けてくれるとは限らず、これは縁のものである。

厳しい世界だけに師匠側から弟子をスカウトするケースは少なく、私も自分から声を掛けることは決してない。しかし、とてつもない才能を持った子どもに出会ったとき、その主義が揺らぐことがある。

天賦の才を持つ弟子がいる「苦悩」

藤井聡太少年が東海研修会(研修会は、将棋を本格的に学ぶ少年少女を育成する組織)に入った小学1年の頃、私はそこで幹事をしていた。輝く才能は当時からで「この子は将来、間違いなく超一流の棋士になるな」と私は確信していた。

聡太少年が4年生の頃、夏の奨励会試験を受けると聞いた。果たして師匠は誰なのか? 幹事だからといって自分が頼まれるとは限らない。でもあれだけの才能。その成長をそばで見届けたい。いっそこちらから声を掛けようか……。

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