「藤井聡太の偉業」が浮き彫りにした"棋界の憂い" "史上最強棋士"誕生で棋士たちは何を思うのか
6月1日、将棋界で40年間破られることのなかった記録が、ついに塗り替えられた。谷川浩司(現十七世名人、61歳)が作った名人獲得の最年少記録を、藤井聡太(現七冠王)が更新したのである。谷川の記録を約4カ月更新する20歳10カ月での戴冠だった。
「最年少名人」の本当のすごさ
なぜ名人獲得は年齢が注目されるのか? それは名人位が特別な挑戦システムの上に存在するからである。他の7個のタイトル戦は、毎年棋士全員が挑戦権を争う。しかし、名人だけは5つに分けられた順位戦の最上位、A級に所属する10人にしか権利が与えられない。
谷川が最年少記録を作って以降、179人の棋士が誕生しているが、この中でプロデビュー時の年齢で記録更新の可能性があったのは、藤井の他に羽生善治(52歳)と渡辺明(39歳)の2人だけである。名人挑戦には最速でも5年かかるからだ。
羽生、渡辺は中学生棋士としてデビューし、これまでタイトル獲得数は、それぞれ歴代1位の99期と歴代4位の31期。その2人でさえも、羽生がA級まで7期、渡辺が10期かかった(1期は1年)。
藤井は14歳でプロデビュー後、順位戦を5期でA級まで昇り、1年目で名人への挑戦権を獲得した。これは谷川と同じ年齢での昇級スピードである。ともに初挑戦で名人を戴冠したが、藤井は生まれ月が谷川より3カ月半遅い。それが今回の記録更新につながったのだが、こうした“運”も勝負の世界では人生を大きく左右する。
記録達成を報じるニュースでは華やかな部分がクローズアップされるが、現実の勝負の場では両者が結果を受け入れるまでの、息が詰まるような時間が流れる。今回、藤井が7個目のタイトル獲得となった第81期名人戦第5局は、5月31日から6月1日にかけて行われた。
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