「藤井聡太の偉業」が浮き彫りにした"棋界の憂い" "史上最強棋士"誕生で棋士たちは何を思うのか
「現在世界トップの韓国のシン・ジンソは23歳で藤井さんと同世代です。でもそのシン・ジンソでさえもあと5年持つかどうかと言われている。それくらい周りの棋士たちが囲碁のためだけに生きている。かつて世界チャンピオンで韓国の『国宝』とまで言われたイ・チャンホは靴の紐さえも結べなかったといいます。今の日本では、こんな教育はできない」
森下の発言がポスト藤井となる世代に向けられているのは、将棋・囲碁の世界では1歳でも若いことが可能性の大きな要素を占めるからである。
「今は奨励会も学業優先になりましたが、それが悪いこととは思いません。ただ、日本の将棋界は中途半端な厳しさの中にあるのではないか。私たちの時代は中卒で、学校に行くよりも将棋の勉強をするように言われました。周りを見て、こいつ死ぬ気でやってないんじゃないかと思っていました。
藤井さんは才能が抜群のうえに、14歳で棋士になり、高校も途中から行かずに将棋一本に打ち込んできた。これからの子たちにそれができるか、そこまで自分を追い込んでやれるかといえば、もう不可能だと思うんです。社会的にそういった厳しさは認められない。その状況である限り、藤井さんが勝つ時代は当分終わらないでしょう」
“藤井世代”は何を思うか
“藤井世代”と呼ばれる棋士の1人に服部慎一郎六段(23歳)がいる。服部は2022年度の年間勝利数で藤井に次いで2位(50勝)、対局数では年間1位(68局)になった。服部は言う。
「現在はほとんどの時間を将棋の勉強に打ち込んでいます。そうしなければ藤井さんにどんどん置いていかれてしまう。いつも、これじゃダメだ、このくらいで満足しちゃダメだって思いながら、ずっと走り続けている状態です」
服部は気持ちが緩みかけたときは、藤井の存在を考えて自分を戒めるという。森下のいう諦めムードのようなものは、服部の周りの棋士たちにはないのだろうか。
「これはやはり2つに分かれると思いますね……。今の藤井さんはそれくらいに圧倒的なところがあるので。でも刺激をもらって、這いあがろうとする人もいる。若手なら、そう思う人が多いのではないでしょうか」
森下が言っていた「死ぬ気でやれているか」という言葉をぶつけてみた。服部は真意をすぐに理解したようだ。
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