池上彰さんが考える「教養」がある人とない人の差 「ただの物知りじゃない」教養を武器にする子育て

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ネットには時折「マスゴミ」という言葉が登場します。権力者に忖度して真実を報道しない、都合が悪いことには無視を決め込む。マスコミなんてゴミのような存在だというわけです。

しかし、確認の取れないことは報道しないのが、まともな報道機関の基本姿勢です。何かを報じる時は複数の情報源を当たり、間違いがないかを何人もがチェックします。その過程で確認が取れなければ報道されません。そこまでしても「お詫びして訂正します」となることがたびたびです。正しい情報を発信するのは、そのくらい難しいことなのです。

(画像:『池上彰のこれからの小学生に必要な教養』)

タイムパフォーマンス重視で視聴を早送りするご時世ですが、知識を得る際にはできるだけ手間をかけてほしい。ネット検索で最初に出てきた情報を鵜呑みにするのではなく、複数のサイトを当たってみる。気になることは本でも調べてみるなど、子どもたちにはいろいろな情報源から知識を得る習慣を身につけてもらいたいですね。

教養は知識を掘り下げたその先にある

では、そのようにインプットした知識を教養のレベルに引き上げるには、どうすればいいのでしょうか。それには、ものごとを深く考える姿勢が大切だと思います。

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現在の教育課程では小学校6年生から勉強が始まる、歴史の教養を例にとりましょう。

十七条の憲法を定めたのは聖徳太子だとか、江戸幕府の成立は17世紀の初頭だなどと、歴史は暗記ばかりでつまらないと感じているお子さんがいるかもしれません。

しかし歴史の教養は、そこからもう一歩踏み込んだところにあります。そのできごとが世の中をどう変えたのか、歴史の教訓を後世にどう生かすのか。そんなふうに考えを深めていくことで、教養が身につくのです。

○○戦争が起きたのは××年という知識から踏み込んで、「なぜ戦争が起きるのか」「戦争をなくすための取り組みはどうなっているのか」を考える。国連ではこういう決まりを作ったらしい、など。

日本が戦争に巻き込まれることはないのだろうか。沖縄にたくさんアメリカ軍基地があるのはなぜだろう? テレビで言ってる北方領土って何だ? いろいろなことがつながり、知りたいことが増えてきます。

差別はいけないと誰もが思っているけれど、差別はなくならない。なぜなんだろう。考えを深める中で、差別が生まれた経緯を知り、人間の愚かさ・未熟さに気づくこともあるでしょう。そうした発見は、自身が差別をしない、他の人を大切に扱うふるまいに通じるはずです。

歴史を深く掘り下げていくと、「今」は「過去」のできごとの上に成り立っていることがわかってきます。そして、自分もまた「今」をよりよくするための社会の一員だと理解する。それこそが教養だと思うのです。

情報の精度を見抜く選択眼を持ち、正しい知識をインプットする。インプットした知識を掘り下げ、考えを深める。そうやって教養を身につけた子どもは、人生の荒波だって前向きに乗り越えていくと思います。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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