高速無料化「2115年まで50年延長」で欠ける議論 首都高速「大師橋」架け替えに見る維持の視点

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もちろん、だからといって諸外国と比べて高い現在の高速料金を「そのまま据え置け」ということではない。需給バランスを考慮した、多様でわかりやすい料金の設定や割引制度なども考えていく必要があると考えるのが自然だ。

また、高速道路の料金を考えるとき、同時に検討しなくてはならないのは、道路と並ぶ陸上交通の要ともいえる「鉄道」である。

抜本的に考え直す時期にきている

日本では、国による運営であった国鉄も民営化されて久しく、鉄道会社はほぼすべて、そのインフラの維持と運行を原則「独立採算制」で行うことになっている。赤字になれば、収入を増やすしかない。

とはいえ、人口減少、とりわけ地方の過疎化は鉄道の運営に大きな障害となり、多くのローカル路線が存廃の危機に立たされているのが現実だ。

維持が困難となり一部廃線となったJR北海道の留萌本線(写真:緋色 / PIXTA)

道路はこれまで建設費さえ返し終えれば、その後の維持・改修は無料とされてきたのに、鉄道は線路や橋・トンネルの維持、車両の運行と更新など、ほぼすべてを永久に運賃収入などでまかなうよう決められている。

もちろん、地方路線では地元の自治体によりさまざまな形で補助が行われているが、近年では、施設・設備の所有と車両の運行を別の経営体に分離し、特にインフラの維持は自治体を中心とするセクターに委ねる、いわゆる「上下分離方式」も見られるようになってきた。

とはいえ、それでも今のまま何も手を差し伸べなければ、日本の大方の地方路線はいずれ立ち行かなくなるだろう。高齢化で車の運転もままならず、頼りにしたい鉄道やバスも消滅するとなると、果たして将来の私たちの「移動権」は確保されるのだろうかと心配になる。

これまで先送りされてきた「将来の総合的な交通体系とその料金負担のあり方」について、抜本的に考え直す時期にきているのではないか。

今回の大師橋の架け替えは、スムーズに工事が終えられたようではあるが、日本中に第2の大師橋、第3の大師橋、そして何千もの工事を待つ橋やトンネルが控えていることを忘れるわけにはいかない。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、NPO産業観光学習館専務理事、京都光華女子大学キャリア形成学部教授、リベラルアーツ・ジャーナリスト。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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