ニューヨークが導入した「AI規制」具体的な中身 骨抜き案がテンプレートにならないか懸念も

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「具体的な用途を想定しなければ、このような問いに答えることはできない」。ニューヨーク大学の准教授で、同大学の「責任あるAIセンター」で責任者を務めているジュリア・ストヤノヴィッチはそう話す。

だが、ニューヨーク市の法律は施行前から批判を集めている。公共の利益のために活動する人々からは規制が手ぬるいという声が上がる一方で、業界団体からは現実的ではないという声が上がっているのだ。

未知のAIを規制する悩ましさ

このように双方から批判が噴出する現状が指し示すのは、AIを規制する難しさだ。猛烈なスピードで進歩するAIがもたらす帰結を見通すことはできず、熱狂と不安が交錯している。

つまり、懸念混じりの妥協は避けられない。

ストヤノヴィッチは、ニューヨーク市の法律には抜け穴があり、それによって効果が弱まるおそれがあると言う。「それでも、法律がないよりはずっといい。それに規制を試みないことには、どのように規制すべきかも学べない」。

この法律は、ニューヨーク市で従業員を雇っている企業に適用されるものだが、労働問題の専門家は、アメリカ全体の規制のあり方に影響を及ぼすことになるとみている。

少なくとも、カリフォルニア州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、バーモント州の4州、およびコロンビア特別区でも、採用におけるAI利用を規制する立法作業が進んでいる。イリノイ州とメリーランド州は、職場の監視や採用選考に使われることの多い特定のAI技術の使用を制限する法律を制定した。

意見が激しく対立する中で制定されたニューヨーク市の法律には、企業の利益に配慮しすぎているといった批判も上がっている。

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