ただし為替レートは大きく変化した。震災後に急激な円高が進み、95年夏ごろから輸入が顕著に増えた。
これに対して、為替介入が行われた。そのため、円高は長く続かず、むしろ円安に転じた。金利は低下を続け、海外との金利差が拡大した。これは円キャリー取引を誘発したと考えられる。そのために96年以降の円安が継続したのだ。
今後の為替レートの動きを予測することはできないが、こうした経済環境の違いは認識すべきだ。いま日本が金融緩和を続けても、96年のように円安にはならないだろう。
それを前提とすれば、前回述べたように生産拠点を海外に移転するのが合理的な対応だ。これは、国内の電力制約を緩和させることにもなる。海外移転によって国内総生産は減るが、海外の生産による所得は日本に入るので、国民総生産(GNP)はあまり減らない。国際収支でも所得収支の黒字が増加して貿易収支の赤字を相殺する。
また、水平分業化も促進する必要がある。今回の震災で、サプライチェーンが破損した。「サプライチェーン」とは、垂直統合の系列メーカーの「連鎖」である。だから、1カ所が途切れれば機能しなくなる。それに対して、水平分業の「ネットワーク」は、1カ所切断されても他で代替ができる。アップルは日本のメーカーの部品生産が止まっても、韓国やアメリカに切り替えられた。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年4月16日号)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら