「プラセボ効果」と茶道のちょっと意外な共通点 偽薬で効果を感じられる2つのポイント

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おそらく、「自分の意思で自分の身体を動かす」という行為が、心身に新しい未知の要素を加え、生命のプロセスが次のステップへと動き始めるのでしょう。プラセボというとしばしばしば、「これは効くはずだ」という思い込みの部分ばかりが取り上げられますが、そうした心理的なプロセスだけではなく、実際の身体的な行為が重なり合うことで、心にも体にも「効く」ことが結果的に起きるのではないだろうかと思います。

「プラセボ」と「茶道」の共通点

一方で私はこの書籍を読みながら、別のことも頭に浮かべていました。それは、茶道の空間や所作です。茶道においては、食を共にしながら掛け軸や器などを共有することで、無意識を活性化させます。外から見ると、正座をして止まっているように見えるかもしれません。しかし、そこでは体も心も「動いている」のです。

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目に見えないほどの細かい所作を積み重ねながら、最終的にはお茶を「飲む」行為に結実させ、すべてのプロセスを内部に取り込むという儀式的な行為。私は、こうした全体的な営み、分割不能な営みの中にこそ、世界とのつながりを取り戻すヒントを感じます。

茶道のプロセスは、誰かが頭の中で理論的に考えたものというよりも、身体的な反応をつぶさに観察しながら生まれてきたもののように感じられます。掛け軸の文字もそう簡単に読めるものではなく、器の価値もそう簡単に分かるものではありません。

普段は使わずにしまっていた自分自身の五感(や第六感)を最大限に駆使することで、無意識は活性化されています。茶道の道具だけではなく、茶室という独特の空間そのものが持つ場の力により、わたしたちは未知なる心の場所を活性化しているのです。そうしたことは茶道だけで起こることではありません。私たちの祖先が残していったあらゆる文化の根底には、そうした生命の仕組みに沿った本質的な治癒の方法が隠されています。

ほぼ止まっているかのようなゆったりとした動きの中で、掛け軸や器を共有する茶道の所作は、スピード感や合理性を第一に考える人々の目からは非合理で無意味なものに見えるかもしれません。また、そうした合理的な思考が私たちの生活を豊かにしてきたことも確かです。

しかしそれだけでは、この世界の複雑な全体像を正確に捉えることはできないのではないでしょうか。そのことを気づかせてくれるのが、時の風雪に耐えて残り続けてきたあらゆる文化であり、合理的に解明できない非合理性にこそ着目する視点です。そのことを理解して初めて、世界の本質に近づけるのだと思います。

稲葉 俊郎 医師、軽井沢病院長

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いなば としろう / Toshiro Inaba

1979年熊本生まれ。熊本高校卒業。医療の多様性と調和への土壌づくりのため、西洋医学だけでなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。2011年東日本大震災をきっかけに、医療の本質や予防学を広く伝えるべく個人での活動を始める。古来の日本は心と体の知恵が芸術・芸能・美・「道」へと高められ心身の調和が予防医療の役割を果たしていた、という仮説持ち、自らも能楽の稽古に励む。著書に『いのちを呼びさますもの ひとのこころとからだ』、共著に『見えないものに、耳をすます 音楽と医療の対話』

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