ただし、場所を変えるというのは大きな労力を伴うもの。特に高齢になってからは、それまで暮らしてきた環境を変えることに、不安感を持ちやすいです。
そのため、漠然としたイメージだけで話していては、親の決意をなかなか固めることができません。
場所を変える提案をする場合には、何か具体的なものを提示すること。お勧めなのは、「もしも来るとしたら」という仮定で、まずは自分が住んでいる地域を親と一緒にまわってみることです。
私自身も、沖縄に住む両親を自分の近くに呼び寄せた経験があります。私の場合は、母親の病気が深刻になり、病院に入院しなくてはならなくなったときに、両親を呼び寄せました。
24時間体制で患者さんを見守る在宅医としての生活の中では、どうしても身軽に移動することが難しい。ましてや遠く離れた沖縄となると、飛行機以外に移動できる手段がありません。
親の体調が深刻なものになってきたとき、「何かあっても夜中に駆けつけることができない」という不安が大きくなり、せめて陸続きの場所に呼びたいと思ったのです。その後母親が亡くなり、今は父親が私の家の近くで暮らしています。
呼び寄せた当初はたいへんだった
今はすっかり新たな場所での生活に馴染んだ父親ですが、やはり呼び寄せたときは一筋縄ではいきませんでした。そのため、「もしも近くに住むとしたら」という前提で、まずは一緒に車に乗って、ドライブしながら私が住んでいる周辺地域をまわりました。
「もしこの辺りに住むなら、どのエリアがいい?」「住む場所の近くには何が欲しい?」など、親に具体的なことを聞きながら一緒にまわるなかで、初めて知った親の価値観もありました。
例えば、車が大好きな父親は、近くに広い道があるのが大事だということ。それが住む場所を決めるときの大事な要素だったとは、初めて知りました。
子どもが「親はきっとこういうのがよいだろうな」と思って提案しても、実際には違ったりもしますし、具体的な検討に入らないとわからないことも多い。親と一緒に動いてみないとわからないことがたくさんあると実感した出来事でした。
場所を変えるという選択肢を含め、現実的に判断していくうえでは「できること、できないことをはっきりさせる」というのが大事です。誰がどこまで動けて、どれだけお金がかけられるかなどの現実的な線引きを考えるのです。
それには「人、物、お金、夢」の4要素を軸に考えると、整理しやすいと思います。
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