ダイソン、「家族経営だからできる」2代目の挑戦 創業者の息子が語った「ヘッドホン」開発の内幕

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空気清浄機を適切に運転させるため、ダイソンは空気質を計測するためのさまざまなセンサーを開発した。人体に影響のあるガスや、あらゆる粒度のダストなどを検出し、それを基に空気清浄機を動かすことで部屋をつねにクリーンな状態に整える。

ダイソンの空気清浄機能付きヘッドホン「Dyson Zone」
ダイソン初のヘッドホンであるDyson Zone。空気の状況や騒音レベルをリアルタイムでモニタすることもできる(写真:ダイソン)

ダイソンはこの機能をネットに接続し、いつでもスマートフォンから空気質をモニタできるようにした。すると、極めて細かな粒度で、世界中の都市の空気質データが得られるようになった。

「空気清浄機が普及して、世界中の都市の空気汚染状況が見えてきた。そこでわれわれは、空気質センサーを搭載したモバイルバッテリ内蔵バックパックを開発し、イギリスやオーストラリアの小学生などに提供して通学時に使ってもらったのです。日本ではアスリートを起用し、日本中をランニングしてもらう企画も実施した。そうした中で得られたのは、大気汚染が確実に進んでいるという事実だった」(ジェイク)

別途、研究開発していた騒音対策(ノイズキャンセリング)技術と組み合わせて開発したのがDyson Zoneである。騒音と空気質を記録する機能も内蔵しており、スマートフォンアプリと組み合わせることで、ユーザーを取り囲む環境データの分析にも利用できる。

家族経営だから“未来の問題”に挑戦できる

いま現在、生活している中で空気清浄機を持ち歩く必要性を感じない、という意見もあるだろう。国内でどこまで需要をつかめるか不透明な部分は多いが、ダイソンにとっては未来への投資という側面が大きいようだ。

「大気汚染や騒音など、屋外の生活環境は今後さらに悪化すると予測できた。成功の保証なんてないが、自分たちが持つ技術を用いて問題解決できるなら挑戦しよう。家族経営だからこそ、価値があると確信したら取り組める。羽根のない扇風機も、何百万台も売れるなんて想像もしていなかったが、新しい市場を生み出し、さらに発展して空気清浄機へとつながった。やるべきことにリスクを取れるのが私たちの会社だ」(ジェイク)

2022年末、筆者はダイソンの研究開発拠点があるイギリスのマルムズベリーを訪れた。多くの従業員は、ネットへの接続性をつねに意識しながら研究開発に勤しんでいた。

”ネットに接続する”だけであれば簡単だ。しかし目的は顧客価値を生み出すことにほかならない。ネットにつながることで、より大きな顧客価値を生み出せなければならない。

マルムズベリーの研究拠点では、エンジニア1人ひとりが、開発の上流プロセスからそうした考えを共有するカルチャーが根付いていた。多様なセンサーを開発し、製品に組み込んでデータを収集し、ソフトウェアで適切に処理しながら環境に合わせて動作する。このカルチャーを定着させたのは、ほかでもないジェイクだ。

「ネットにつなぐべきか5〜6年前から検討していたが、当時はユーザーのベネフィットがはっきりしていなかった。しかし世の中は変化し、技術も進歩したことで、消費者にとってもダイソンにとっても価値があることが明確にわかってきた。そこで私自身が先頭に立ち、2年前から”コネクティビティ”についての価値観を社内で共有するようにしてきた」(ジェイク)

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