日本の「薄型テレビ販売1位」中国メーカーの正体 東芝テレビ事業買収、シャープと明暗分かれる

拡大
縮小

ハイセンスグループの躍進は日本市場にとどまらない。調査会社Omdiaによると、グローバルでの同グループの2022年テレビ出荷台数は前年比16.1%増加の2454万台で、前年の4位から2位に順位を上げた。

鴻海がシャープを買収した2016年には、シャープがハイセンス向けのテレビ用液晶パネル供給を9割削減し、大きな打撃を与えると報じられたが、当時の事情を知る関係者は「調達先を変えて対処し、まったく影響はなかった」と振り返る。

日本市場の重要性

李社長は「日本ではレグザから引き継いだテレビと、新たに立ち上げた白物家電の2つの開発センターで技術者約160人が日本市場の要求をクリアする技術開発に取り組んでおり、グループ全体の底上げにつながっている」と、日本の重要性を強調した。

李文麗社長(撮影:尾形文繁)

ただ、テレビ市場の縮小という逆風はどのメーカーも逃れられない課題だ。スマートフォンやタブレットなど動画を見る端末とコンテンツ配信の双方が多様化し、テレビは必需品とは言えなくなりつつある。

2020~2021年は新型コロナウイルスの流行による巣ごもり需要でテレビ市場が伸びたが、買い替え需要を先食いした側面もあり、2022年以降は反動減が続くと見られている。

李社長は、「当社は2023年の日本のテレビ販売台数が510万台と、2018年の水準まで減ると予測している」と分析しつつ、「一方で2023年の販売金額は2018年から18.6%上昇し4680億円を見込んでいる。ゲーム、フィットネスなど『テレビ番組を見る』以外の使い方が広がり、高機能、大画面を求める消費者が増えるためで、将来的には遠隔診療などにも利用されるだろう。多様な利用シーンに応じた進化を遂げれば、まだまだ伸ばすことができる」と自信を示した。

製造業、とりわけ家電分野は日本メーカーの退潮が鮮明だが、李社長は「最終製品の生産は中国、韓国、将来的には東南アジアにシフトしていくだろうが、購買や技術協力を通じて、日本の技術力は以前と変わらずすばらしいと思っている」と評価する。

ハイセンスの日本人技術者は、日本市場だけでなくヨーロッパ、アメリカ、中国などグローバルで展開する先端技術の開発にも取り組んでおり、「一般的に知られにくい部分だが、部品など原材料の技術力は中国企業が及ばないところがある。日本メーカーはより付加価値の高いハイテク技術、産業にシフトしていくべき」と提言した。

浦上 早苗 経済ジャーナリスト

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うらがみ さなえ / Sanae Uragami

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育など。中国メディアとの関わりが多いので、複数媒体で経済ニュースを翻訳、執筆。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。新書に『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。
Twitter: @sanadi37

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