広島サミット影の主役・中国が描く国際秩序とは G7は「法の支配」の理念を打ち出せたのか

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3つのイニシアティブのうち、最も実効性があるのがGDIである。筆者が過去の地経学ブリーフィング(「中国の民主主義と人権の「認知戦」に要警戒なワケ-習近平政権による「話語権」と価値の相克」)で論じたように、GDIにおける「発展(development)」は中国が経済力を介して影響力を発揮するうえでのキーワードである。

国連の「持続可能な開発(sustainable development)のための2030アジェンダ」を焼き直しているうえ、中国における「生存権と発展権が第1の基本的人権」という独自の人権概念にもリンクしている。つまりGDIは中国がかねて実施してきた外交戦略に基づいたナラティブ(語り)であり、また「経済的発展の重視」という主張はグローバル・サウス諸国にとって受け入れやすいものだ。

他方でGSIやGCIは、安全保障や価値における中国の実力に鑑みれば、理念先行型のナラティブと言わざるをえない。

ではなぜ、習近平政権は実力以上の国際ビジョンを掲げるのか。基本的には、アメリカとの関係において優勢に立つための国際世論戦の一環であろう。ただし単なる宣伝活動とは言い切れない。

2022年4月に発表したGSIについて、中国外務省は2月21日に改めて「グローバル安全保障イニシアティブ・コンセプトペーパー」を発表し、統合的な安全保障概念として再提起した。要点として挙げた6項目の1つに「国家間の溝や紛争の対話と協議を通じた平和的方法による解決を堅持」が含まれていることは注目に値する。

現場にいる外交関係者にとってGSIは実現すべき外交目標と認識されていると考えられる。つまり中国の積極的な調停外交の背景には、こうした理念とリンクした国内の政治環境の変化があるのだろう。

中国を念頭においた戦略的コミュニケーション

理念先行の外交とはいえ、中国が積極的に「国際平和」にコミットする姿勢をみせるなか、G7はどのような発信をするべきか。

注目すべきキーワードは、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序(the free and open international order based on the rule of law)」である。

これまで日本を含むG7各国はしばしば「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」という表現を共通概念としてきたが、4月のG7外相会議からは「法の支配(rule of law)」がキーワードとなってきた。

一見すると技術的な表現の調整のようにみえるが、実は「ルールに基づく国際秩序」という際のルールは誰が決めるのか、既存の国際秩序は先進国に有利なので改変が必要ではないかといったグローバル・サウスの不満をかわす意図がにじむ表現の変更である。

さらに中国政治において「法の支配」の主張は、共産党の一党独裁体制への批判を含意する。中国には法治のあり方を示す、「依法治国(法による治国)」という政治用語があるが、その実態はrule of lawではなく、rule by law(法を用いた統治)だとする解釈が定着している。中国政府は「法の支配」を否定はしないものの、実態として統治者(governor)である共産党政権が法(law)よりも上位に位置するためである。

「統治者もまた法の支配のもとにあるべきだ」という提言は、独裁や権威主義への牽制であるとともに、国際世論を「価値の競争」から誰もが受け入れるべき「原則」論に引き戻す試みである。これは国際秩序のあるべき方向性を指し示す建設的な発信であり、リベラルな規範を共有するG7ならではのメッセージと評価できる。

グローバル・ガバナンスの行方を決するのは経済力や軍事力のハード・パワーだけではなく、その理念に根源的な力があることを忘れてはならない。

(江藤名保子/地経学研究所上席研究員兼中国グループ・グループ長)

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