シャープ「2600億円赤字」を招いた原因に残る疑問 再び連結化した液晶パネル製造会社を巨額減損

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DCF法では、企業活動によって将来得られる金額を予想し、その金額が現時点でどれぐらいの価値を持つのか、という考え方で企業価値を計算する。大ざっぱにいえば、増益基調の予想が前提なら企業価値は大きくなり、減益や赤字が前提なら企業価値は小さくなる。

だからこそ、シャープがSDPを買い戻したタイミングが疑問視されている。公表されている決算によれば、SDPは買い戻し前の2018年12月期から3年間は営業赤字だった。とくに2020年12月期は416億円の営業赤字で、当期損益は会社設立以来最大となる1019億円のマイナスだった。

ところが買い戻し直前の2021年12月期は、新型コロナ禍の液晶パネル需要を受けて業績が改善、93億円の営業利益を計上し、純損益も69億円の黒字だった。業績の増減が大きいことを前提に企業価値を計算すると、結果の幅が大きくなる。

堺ディスプレイプロダクトの業績推移

結局、シャープはSDPの企業価値を算定結果の中間値である600億円程度と判断。400億円相当の株式を新規に発行、2022年6月に株式交換を実施してSDPを買い戻した。異例の再子会社化は発表からわずか4カ月でスピード決着をみた。

業績見通しへの信頼性も低下

5月11日の決算会見で買収プロセスを問われたシャープの呉CEOは、「問題があったとは思っていない」とだけ説明している。だが、株式市場関係者の間では、巨額の赤字や減損は予測可能だったという見方が多数派だ。

実際、シャープがSDP買い戻しを発表した2022年2月にはすでにディスプレー市況は悪化し始めていた。買収直後の2022年7~9月期からその影響は顕著になり、シャープ本体の営業利益も同期には赤字に転落。最終的に通期で257億円の営業赤字になった。家電などの黒字をディスプレー関係の赤字が吹き飛ばした構図だ。

そして、冒頭で述べたとおり2205億円の減損を計上し、シャープ本体の自己資本比率は約11%(2023年3月末時点)に低下した。シャープが株式を一部手放した2012年に約1700億円あったSDPの純資産も、2022年末時点で約13億円にまで減った。今後も赤字が続けば、債務超過のリスクがある。

だからこその「黒字必達」宣言だが、不明瞭な買収プロセスは、業績見通しへの信頼性も低下させている。

「当期利益を黒字化する、というのを最優先した数字に見える。ディスプレー事業を既存の枠組みで抱えながら事業経営をすることはサステナブル(持続可能)とは言えない」。SMBC日興証券の桂竜輔シニアアナリストは、会社が発表している2024年3月期の業績予想についてそう指摘する。

野村証券の岡崎優リサーチアナリストも「年間黒字の必達や、ブランド事業を主軸とした事業構造の構築に取り組む方針を示したが、成長戦略の具体策は乏しかった」と厳しい見方だ。

赤字体質の元子会社をなぜいまさら買い戻したのか。買い戻しのプロセスは適切だったのか。そして、今後の業績回復にどう道筋をつけるのか。シャープとその経営陣はいずれの疑問に対しても十分な答えを用意できていない。

梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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